Charlie Cobb:
Nice Night for a Hanging(’77)
縛り首の夜


~サスペンス西部劇TVムーヴィーの快作~
皆様、こんにちは。
めとろんです。
かの有名な「刑事コロンボ」の原作者、ウィリアム・リンク&リチャード・レヴィンソンの作品を、ぼくの感想をまじえてご紹介する「W・リンク&R・レヴィンソンの世界」。
今回は、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクが製作総指揮と原案、盟友ピーター・S.フィッシャーが製作、原案&脚本を担当した、『縛り首の夜』(’77)をご紹介します。
Story

カリフォルニアの牧場主マクベア(ラルフ・ベラミー)は、私立探偵チャーリー・コブ(クルー・ギャラガー)を雇い、幼い頃に誘拐され、以来、行方不明だった娘チャリティ(ブレア・ブラウン)を彼のもとへ届けるように依頼する。
じつはチャーリーは、推理力は抜群だが、悪癖が災いしてライバルに事務所の経営を奪われたため、仕事の際には平気で経費をごまかす小悪党でもあった。

チャーリーとチャリティは牧場近くの街に着くが、早々によそ者として収監されてしまい、現れたマクベアの部下に救われる。
そして、美女アンジェリカ(トリシア・オニール)が、彼らの行く先々に現れ、謎は深まる。また、チャリティと、チャーリーは、四六時中行動を共にするうち、互いに惹かれあっていく。


牧場主の新妻マーサ(ステラ・スティーヴンス)、牧場主の腹心ウェコ(クリストファー・コネリー)、悪徳保安官イエーツ(パーネル・ロバーツ)など、何人もの人間が悶々としてその成り行きを見つめていた。牧場主が死ねば広大な敷地を相続することになるその娘が、生きて牧場に戻ることを、誰も望んでいないのだ!
そして、マクベアの娘として認められ、その祝いのパーティーの翌日。
亡き母の墓参をするチャリティの前に現れたマーサは、彼女に銃口を向ける!
(ネタバレ反転)
それを止めに入ったマクベアは、別方向からの発砲で撃たれてしまう。
倒れた彼を尻目に、マーサはチャリティに発砲するが、彼女は辛くも逃れる。
…マクベアを撃ったのは、何と、保安官イエーツであった。彼はマーサと共謀、牧場主殺害の犯人として、チャーリー・コブを逮捕・収監されてしまう。
その夜、街に群衆が集まり、縛り首の準備が着々と進む中、危機一髪、アンジェリカにより救出されるチャーリー。脱獄に気づいた人々との激しい銃撃戦!
干し草を積んだ馬車に飛び乗り、その場から脱出する、チャーリーとアンジェリカ。

翌日、荒野にひとり逃亡していたチャリティを、保安官イエーツの銃口が襲う。
チャーリーは、廃坑に逃げ込んだ彼女をイエーツから護らんと、銃を抜き2人を追う!

【 Staff&Cast 】
・演出…リチャード・マイケルズ(1936- )
1936年2月、ニューヨーク市ブルックリン生れ。1950年代からTVドラマ界で活躍。TVムーヴィー『君の名はジョナ』(1979)、『サダト/アラブの闘士』(1983)他。
《 CAST 》
クルー・ギャラガー
Clu Gulager(1928- )
チャーリー・コブ役

1928月11月、オクラホマ州ホールデンヴィル生れ。牧場で育ち、海兵隊に入隊。退役後に本格的に演劇を学ぶ。西部劇の端役から始まり、『殺人者たち』(1964)で映画デビュー。
その後、TVドラマと映画に跨り、活躍を続ける。映画では、『ラスト・ショー』(1971)、『バタリアン』(1985)、『エルム街の悪夢2/フレディの復讐』(1985)等がある。
ブレア・ブラウン
Blair Brown(1946- )
チャリティ役

1946年4月、ワシントンDC生れ。カナダの国立演劇学校を卒業し、多くの舞台に立つ。
映画では『ペーパー・チェイス』(1973)、『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』(1980)他に出演。近年のTVシリーズでは、『FRINGE/フリンジ』(2008-2013)への出演がある。
トリシア・オニール
Tricia O'Neil(1945- )
アンジェリカ役

1945年3月、ルイジアナ州生れ。『刑事コロンボ/攻撃命令』(1978)、『殺人魚フライング・キラー』(1981)等に出演。
ステラ・スティーヴンス
Stella Stevens(1936- )
マーサ・マクベア役

In Broad Daylight(’71)暗闇の中の殺意 の項 を参照
ラルフ・ベラミー
Ralph Bellamy(1904-1991)
牧場主マクベア役

1904年6月、イリノイ州シカゴ生れ。高校を卒業して巡回劇団からキャリアをスタート。ブロードウェイで活躍。

1930年代から映画に出演したが、我々にとって最も忘れ難いのは、やはり『Ellery Queen, Master Detective』(1940)、『Ellery Queen's Penthouse Mystery』(1941)、『Ellery Queen and the Perfect Crime』(1941)、『Ellery Queen and the Murder Ring』(1941)と、4本もの映画において、名探偵エラリイ・クイーンを演じたことでありましょう。
その後、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)、『ヘキサゴン』(1971)、『オー!ゴッド』(1977)、『エヴァ・ライカーの記憶』(1980)、『プリティ・ウーマン』(1990)等、ジャンルを問わず、幅広く出演。1986年、アカデミー賞名誉賞を受賞。1991年、鬼籍に入られています。
【 MEMO 】
原題は、『縛り首にはもってこいの夜』といったところでしょうか。
1977年6月9日、放映されたTVムーヴィーです。
ピーター・S.フィッシャーは、戦争もののTVミニシリーズ『Once an Eagle』(1976-77)の仕事をちょうど終えた後、この作品に携わりました。
『Once an Eagle』は、第一次世界大戦から第二次世界大戦終了まで、部下を顧みない無能な上官コート・マッセンゲール(クリフ・ポッツ)と、英雄的で思いやりのあるリーダー、サム・デーモン(サム・エリオット)、2人の陸軍将校の物語でありました。
その後、息つく暇もなく製作したのが、『縛り首の夜Charlie Cobb: Nice Night for a Hanging』(1977)であったのです。

ピーター・S.フィッシャーは、このパイロット版の依頼が来た際、この数年前のTV界の西部劇ブームは、どの作品も過去のプロットのヴァリエーションの焼き直しで、すぐ視聴者から飽きられてしまった、と感じていました。
「西部劇はもう古いと誰も言わなかったのだろうか?」
「今の時代、"ウエスタン "という言葉は四文字熟語のようなものだ。」
「ディック(リチャード・レヴィンソン)は、そんな私の気持ちをほぐしてくれた。
"これは西部劇じゃない" 、"探偵ものなんだ "とね。 ああ、それなら…、と。」
本作は、原案をフィッシャー、レヴィンソン、リンクが考え、フィッシャーが脚本を書きました。
そして、製作をフィッシャー、製作総指揮をレヴィンソン&リンクが担当した、パイロット版のTVムーヴィーです。
アリゾナ準州が舞台で、馬、トカゲ、ガラガラヘビ、サボテンが登場し、誰でも西部劇だとわかるように仕立てたといいます。
「クルー・ギャラガーは、それまでの役柄から脱して、チャーリー・コブという、経費を水増しする才能に最も長けた、ずるがしこく機知に富んだ、悪党の私立探偵(保険調査員)を、魅力的に演じた。クルーは素晴らしかったが、彼の最善の努力にもかかわらず、この作品は凡作として、シリーズ化は適わなかった。」
以上のように、『Me and Murder, She Wrote(Murder, She Wroteと私)』(ピーター・S.フィッシャー著)を紐解けば、まったく気乗りのしない「西部劇」仕事であったように読み取れますが、鑑賞してみれば、なかなかに痛快なサスペンス西部劇TVムーヴィーの、快作なのです。
時に1977年。前年にはドン・シーゲル監督、ジョン・ウェインの遺作『ラスト・シューティスト』(1976)が公開され、”ひとつの時代の終焉”を象徴するようなイメージの時期でした。
健闘した作品も多々あったにせよ、西部劇「冬の時代」という認識は、フィッシャーの感覚を読むにつけ、あったのでしょう。
この作品は、レヴィンソンのフィッシャーに対する助言、「探偵ものなんだ」という言葉通り、現代のハードボイルドものに置き換えたとしても、成立するプロットであると思います。
跡目争いに巻き込まれた、うら若き美女を命懸けで護る私立探偵…!
脚本の担当はフィッシャーですが、原案に、レヴィンソン&リンクも参加しているという意味で、彼らの作品として考えれば、これはもともとの嗜好である、「ハードボイルド」の系譜に連なる内容と言えましょう。

クルー・ギャラガーが好演する、主人公である私立探偵(an insurance investigator=保険調査員が最も近い)チャーリー・コブが大変、魅力的で憎めない。ボスへの必要経費の請求書も、金額を釣り上げて書き換えたりして、セコい(笑)アンチ・ヒーロー的なキャラクターなのですが、それはそれ、やる時はやる漢気を発揮。本来、二枚目のクルー・ギャラガーも、三枚目的な風味を絶妙にブレンドして、自然と応援したくなるのです。

そして、チャリティを演じるブレア・ブラウン女史の魅力爆発!
僕は、完全にノックアウトされたことを告白します。(笑) 幼い頃から会っていない家族に再会する不安、幾度も生命の危険に晒される恐怖、それでも前向きに現実を向き合う勇気…徐々にチャーリーに惹かれていく表情も繊細に描かれ、キュートな容姿とも相俟って、最高のヒロインでした。狙われる側が魅力的なので、護る側にも自然と感情移入できるのです。

あとは、「大人の女」部門を担当する、トリシア・オニール女史演じる謎の美女、アンジェリカ。これぞ西部劇版・峰不二子という雰囲気で、濃厚なセクシーさを振りまくと思えば、豪快に銃をぶっ放すギャップが素晴らしい。シリーズ化されていれば、その背景をもっと知ることができたかと思うと、パイロット版のみで終わってしまったことが惜しい限りです。
オーラスの、チャーリーとチャリティの別れも、決して良くあるメロドラマ的な愁嘆場にせず、サラッと終わるところも、却ってしみじみとした余韻を残すのでした。
本格ミステリ的な仕掛けは特にありませんが、ハードボイルド的な興趣と派手なガン・アクション、そして魅力的な俳優とキャラクターたちによって、楽しく観られる西部劇TVムーヴィーの佳作となっています。
この作品の後、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクは、映画『ジェットローラー・コースター』に携わり、フィッシャーはTVミニシリーズ『ブラック・ビューティー』にシフトしていくのですが、それはまた、別の話。

ぜひ、ご鑑賞を。
それでは、また。
【参考文献】
『Me and Murder, She Wrote(Murder, She Wroteと私)』(ピーター・S.フィッシャー著)
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