2022年03月28日

R・レヴィンソン&W・リンクの世界(番外編⑤)大発見! 妻を殺せば(’62)~「殺人処方箋」本邦初翻訳~

R・レヴィンソン&W・リンクの世界(番外編⑤)

大発見!
妻を殺せば(’62)
DEAR CORPUS DELICTI

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コロンボ.jpg

~「殺人処方箋」本邦初翻訳~

 皆さま、こんにちは。
 めとろんです。

 この度、「日本に於ける『刑事コロンボ』史」に、大発見がありました。

  
 これは、広島県で「古書あやかしや」という、古本屋をされている東さんから、『刑事コロンボ』研究家の町田暁雄さんにもたらされた貴重な情報です。
 このブログ「めとLOG ミステリー映画の世界」にて、公表させて頂けることに、感謝の気持ちでいっぱいです。
 東さん、そして町田さん、大変にありがとうございます。

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 その大発見とは、『刑事コロンボ』のオリジナル「殺人処方箋」のもとになった短編「DEAR CORPUS DELICTI a.k.a. May I come in?(愛しい死体)」(’60)が、『ハヤカワミステリマガジン』2011年11月号(No.669)に掲載される遥か以前、1962年に日本で翻訳されていたという、驚くべき事実です。

 掲載は、ワセダミステリクラブの学内誌『PHOENIX(フェニックス)』28号
 タイトルは、「妻を殺せば」となっています。
 翻訳者は大井良純という方で、その後、『落ちる男』(マーク・サドラー 早川ポケミス)、『902便墜落!』(ハル・フィッシュマン&バリー・シフ 創元ノヴェルズ)ほかの翻訳書があり、日本推理作家協会会員でもあられたようですが、2007年に逝去されています。
 この短編に注目した理由や、掲載に至る経緯など、すでにお伺いできないのが大変に残念でなりません。
 『妻を殺せば』というタイトルは、与謝野鉄幹の詩に掛けたものでありましょう。なかなかに洒落ています。

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 妻を殺害したチャールズ・ロウと愛人スーがタクシーで空港に乗りつけるシーン。
 
 「チップをはずんでおいた。わたしたちを覚えていてくれるだろう」
(上條ひろみ/訳)

 「彼にたっぷりチップをはずんだよ。」彼は言った。「ぼくたちのことを忘れっこないよ。」(大井良純/訳)
 
 …というように、上條ひろみ訳が若干、その後の『殺人処方箋』のレ(ロ)イ・フレミングに寄せているように感じられるのに対して、大井良純訳は、その縛りが無い分、従来より少々、年齢層が下のイメージであり、「若気の至り」による犯行…との可能性も匂わせるのです。

 また、最終盤、モントリオールから帰宅した犯人が、フィッシャー警部補と対峙しながら、ドアマットに挟まれた紙片をかがんで拾いあげるシーンで、大井良純訳では「かがみ込んでそれを捨てた。」となっており、その後の描写と矛盾しますが、これは恐らく全編手書きの為の、ケアレスミスであると思います。(笑)

 奥書には「今号は新入生の人達に書いて頂きました。(中略)又ワセダに入る以前既に百冊以上の洋書を読破されたという大井氏の訳された「妻を殺せば」、うずもれていた傑作です。(後略)」と、あります。
 Alfred Hitchcock’s Mystery Magazine1960年3月号の初出から2年弱。
 まったくの白紙状態で、この短編を編集者が既に、「うずもれていた傑作」と評していることが誇らしい。
 流石、進取の精神に富むワセダミステリクラブと称えたい気持ちです。

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 『PHOENIX(フェニックス)』28号の印刷発行は昭和37年6月14日となっています。
 その時期はちょうど、アメリカで舞台劇『Prescription: Murder(殺人処方箋)』のトライアウトが、ブロードウェイへの道を断たれ、閉幕した頃と重なるのです。
 その後、『刑事コロンボ』大ブームを巻き起こすことになる日本で、レヴィンソン&リンク失意の頃、人知れず、もとの短編が密かに評価され、学内誌として出版されて、何らかの種が蒔かれたことが、心から嬉しく感じられるのです。

 それでは、また。


posted by めとろん at 10:03| 千葉 ☁| Comment(0) | R・レヴィンソン&W・リンクの世界 | 更新情報をチェックする
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