Kill Joy(’81)
キルジョイ


~傑作フーダニットTVムーヴィー~
皆様、こんにちは。
めとろんです。
今回は、1982年度エドガー賞、最優秀TV映画・ミニシリーズ賞を受賞した傑作TVムーヴィー『Kill Joy』(キルジョイ)をご紹介します!
Story
冒頭、不安気な音楽と共に、あるアパートに忍び寄る影…一人称のカメラ。
クレジット。
そして、無造作に室内に入って行き…女性をハサミで刺し殺すシーンが、タイトルと共に映し出される。

市の総合病院に勤める2人の若き医学者、病理学部の部長ポール・トレントン(ジョン・ルービンスタイン)と外科医マックス・へラー(スティーヴン・マクト)は、医師会の取締役会長の娘ローリー・メドフォード(キム・ベイシンガー)を奪い合うライバル。
我儘いっぱいに育った彼女の奔放な行動に、いつも振り回されてきた2人は、あらゆる点で対照的であった。
学費を稼ぎながら懸命に勉強し、若くして優秀な外科医の地位を手に入れたがプレイボーイのマックス。女医である母マーサ(ナンシー・マーチャント)から「父親と同じ」と常になじられ、鬱屈した実直肌のお坊ちゃん、ポール。

その夜、彼らはいつもの様に3人でバー「ポスト・オップ」に集まった。しかし、そこでポールは驚愕の事実を知る。なんと、マックスとローリーが婚約したというのである。
祝いの言葉を述べたポールは、自邸で母から「お前は未来を奪われた」となじられ、反発する。
「ポスト・オップ」で一緒になるポールとローリー。
「今朝来たらドアの下にこれが…」と店主がマックス宛と言って手渡したのは、ハート型のキーホルダーの付いた鍵と、「ジョイ・モーガン L.C.308番地」からの手紙。
中身には、”今朝忘れたでしょ。鍵がなければ夜中に入れないわよ あなたのジョイ”-と。
婚約したのを知らず、こんな手紙を寄越したのだろうとポール。
怒り心頭のローリーは、彼を誘ってジョイのアパートへ押しかける。

人気のない部屋に入った2人。
室内にはマックスの写真、そして彼の上着がクローゼットに掛けられていた。
更に逆上するローリー。「彼は君を愛している。解決するんだ」となだめるポール。そして、彼らが去った後、部屋に入る謎の男(ロバート・カルプ)の姿が…。
病院でマックスに詰め寄るローリー。「そんな女は知らない、馬鹿げている」と驚くマックス。そして、この事件によって、婚約は延期となる。
マーサはかつてポールが「バーで”その辺の”金髪の女と一緒にいた」ことをなじると、彼は怒った後で、母にほくそ笑んだ。
そして、語る。「ジョイなる女性は存在しない。留守中の友人の家を借り、それとなく愛人宅の雰囲気を演出した」と。
息子の思い切った行動を誉めるマーサ。不敵に笑うポール。
一方、いわゆる”ジョイ宅”に訪れるマックスは、そこで銃を構える謎の男と相対する。
“ジョイ”について語る男。部屋にあったアルバムから、自分の写真を抜き取る。
死体の解剖が中心の病理学部で一緒のポール、マーサとローリー。
そこへ、マックスがやって来て「僕は確かにジョイとつき合っていた。でも、もう関係ない。誓うよ」と告白する。愕然とするマーサ。
―“ジョイ”は、存在しない筈ではなかったのか?
彼女は一計を案じ、週末自宅で開かれるパーティーに、ジョイも連れてくるよう持ちかける。一瞬たじろぐマックスだったが、渋々応じるのだった。
そして、パーティー当日。…本当に”ジョイ”がパーティーにやって来る!
信じられない表情のポール。
「君がジョイ?」明るく派手な”ジョイ”を名乗る女は、怒るローリーに「全部イタズラだったの。許して」と謝り、2人をとりなしてすぐに去ってしまう。
仲直りする彼らに、悔しい表情のマーサ、ポール。
「彼女は誰?」「知らん」
ローリーの邸宅に戻った2人の前に、又も現れる謎の男。
「つきまとうな。背骨を折るぞ」「折ってみな」

患者が欠かさず観ているTVドラマを見て、ある事実に気づくマーサ。
そこに出演しているヒロインが、”ジョイ”そっくりなのだ!
早速ポール、ローリー達はTVスタジオまで押しかけ、その女優が昔つき合ったマックスに頼まれ、”ジョイ・モーガン”役を演じたことを突きとめる。
ジョイが存在しているなら、わざわざ何の為に、そんなトリックを使ったのか。
「じかに聞く。職場が判った」というローリーについていくポール。
そのオフィスに行くと、”ジョイ・モーガン”のプレートがあり、その同僚である婦人から「彼女は旅行で欠勤中、でも本当はどうか分からない。最近、医者とつき合って、結婚を意識してるらしい」との証言を得る。「相手は医者なの?」「のろけてたわ」
そして、彼女の日記には”ポスト・オップでドクターと会う”と書かれ、それきり出社していないという。
ローリーは、ポスト・オップで謎の男に会い、「ジョイの処へ行こう」と誘われる。
一方、マックスは遺体冷凍所のポールに怒鳴り込み、彼の上着をポールが盗むのを目撃した証人がいると告げた。「お前が仕掛けたんだ!」ポールを殴るマックス。
万事休す-止めるマーサ。「確かにやったのは僕だ。彼女にすべてを話す。もう終わりだ」
彼らがポスト・オップに着くと、ローリーは既にいなかった。
謎の男が連れ出したと聞き、急ぎ彼女の邸宅に向うと、部屋は無残にも、ムチャクチャに荒されていた。
続いて、謎の男が現れる。ローリーは途中で別れ、ここで落ち合う予定だという。
「俺がやったと思うなら、警察を呼べ!」

ローリーが消え、息子を守ろうと裏で動き画策しようとするマーサ。
彼女がジョイの家を訪れた時、謎の男が待ち構えていた。そして、ジョイ・モーガンが失踪し、血のついたハサミが見つかったこと、そしてアルバムの写真-金髪の女性と、仲睦まじく抱き合うポールの姿-「彼女が、ジョイ・モーガンだ」
混乱し、ポールに詰め寄る母マーサ。
「なぜ嘘をついたの?!ジョイはいるわ」
ポール「仕方なかった。ママにはいないと言った方が、都合がいいだろ?」
ある事に気づくマーサ。「バーであなたと一緒だった女ね」
「そうだ!金髪の”安っぽい”女さ」同僚に呼ばれ、解剖室へ去ろうとするポール。
「行くよ」不安げなマーサは、彼を止める。
「行かないで、怖いの」「僕がいる。-心配ない。何とかなる」
解剖室の電話が通じず、一旦廊下で電話を受けるポール。
彼が戻ると、遺体の入ったポッドの扉が一つ、半開きになっていた。不審を感じ、少しずつ近づくポール。
トレイを引き出し、遺体の覆いを外す-出てきたのは、ローリーの顔だった!
愕然とし、思わずトレイを元に戻すポール。
即座に電話で母を呼び出そうとするポールだったが、その背後には謎の男が立っていた…。

(ネタばれ反転-この後、映画の結末を明かしています。未見の方は、申し訳ありませんが、御遠慮願います)
「腕前を見せるのか?」にじり寄る男に、後ずさるポール。「彼女の死体が…!」
「誰が殺した?」錯乱しかけるポールに、男は語りかける。
「大丈夫だ。…落ち着け。話してくれ」「彼女は刺された!…同じように」
「何が?-他にもいるのか?…ジョイのことか?」
ハッと我に返るポール。「ここで何してる!?」「ああ、マックスに会った。…君に伝言を。ローリーは帰ったから心配ないと」「…嘘だ!彼女は中に…」「入ってみよう」
死体を見る男。「人体に詳しい者の仕業だ。どこを刺せば即死する?」
「なぜ聞く!」怒るポールに対し、”犯人は解剖学に通じてる。急所を知ってる”、”死体を隠す絶好の場所まで知ってる”と意味深に語る男。「僕がやったとでも!?」
謎の男は、マックス、ローリーの婚約について指摘し、古風な男であるポールが、彼女が手に入らないとなれば、いっそのこと…と推理を述べる。
その瞬間!「やめて!残酷なやり方だわ!」
-と、死んだはずのローリーが、必死の形相でトレイから突然起き出した。
一考の後、事の次第を察して男に殴りかかるポール。男はそれを強く抱き止め、”これでわかった”とでも言うように、彼の肩を叩き、”もういい”とローリーに声をかけ、足早に部屋を去っていった。
ローリーは、”こうすれば、何もかも分かる”と男に持ちかけられ、訳もわからず演技していたことが判明する。
そこへマーサ、マックスを引きつれ再び男が登場、「お前は何者だ!」と叫ぶ一同に、彼は自らの正体を明かす。-「-俺は警官だ」と。彼ルー・カルヴィンは、遂に説明を始める。

ー”一年前、ジョイが警察に通報して以来つき合い、うまくいっていたが、年の差もあり別れたこと。そして、今月の5日に署に一通の手紙が届いた。匿名の手紙だった。
「ジョイがいなくなった。何か起こったらしい」-と。
部屋を訪ねたら、異常はなかった。…が、何かが変だ。
風呂を見て驚いた。何と、かたづいている-彼女は、片付けることが大の苦手だったのに。”
加えて、絨毯やベッドについたジョイの血痕。
そして彼は、証拠物件である血のついた(手術用の)ハサミを取り出し、ローリーに突き付ける。「君の指紋が付いている」
「待ってくれ!」ポールが割って入った。「彼女が触ったのを見た」
ジョイが、鍵と手紙をバーに残していった日だったとのポールの証言に、ルーも納得する。
血痕が付いていたのは絨毯やベッドだけで、これだけでは殺人の証拠にはならない、とマックスが反論すると「殺人だと?俺はそうは言ってない。だが、もしかすると誰かがこれで…!」と、ハサミをポールの母マーサに突きつける男。
魅せられたように、動かない彼女。「殺した」「なぜ?」とマーサ。「理由はいろいろあるだろう、あなたにだって…!」
彼女が、息子と別れろとジョイを脅したことを指摘するルー。
「頭にきて、言っただけよ」「頭にきて、やっちまった!?」問い詰めるルー。
「それとも、もっと冷静に、息子を守るためか?-”金髪の、安っぽい女”ってのから」
一同を見渡し、ルーは語る。
「病理研究室。-解剖用の死体。完璧だ!火葬する死体がひとつ増えるだけだ。誰にも見つかりっこない」ポールと母マーサに近づく男。
「あなたの息子は…病理学部の部長だ」
そして語る。「肝心なのは…君たちの関係と動機、そして利害だ」
マックスについても、彼がローリーを手に入れ、ジョイが邪魔になったのでは、と指摘する。マックスは「馬鹿馬鹿しい。つき合いきれん」と一蹴する。
「そして、動機はローリーにも」
すでに、彼女はマックスとジョイの関係を知り、逆上して殺したのでは…と。
「あんたは…どうなんだ?」と男に言い返すマックス。
「いい仲だったんだろ?嫉妬して殺したんだ。単なる憶測だが…殺人が事実なら、俺はあんたが一番怪しいと思う」
一瞬ひるむように見えるルー。「帰っていい。明日また来る…逮捕状を持って」
帰り際、ふとしたことから、遺体を火葬にする許可を出せるのはポールだけであること。
そして、その規則を彼自身が決めたのは、今月の5日であること-が判明する。
ルー「ジョイについての、匿名の手紙が来たのも5日だった。俺が許可するまで火葬は保留しろ。-いいな?」「なぜ?」「命令だ」去るルー・カルヴィン。
ローリーを送って帰ることになるマックス。「何か変だわ」「何が?」「考えさせて」
彼のスポーツカーが、闇夜を疾走する。何かに気付く彼女。「止めて!車を止めて!」
突然錯乱したように暴れる彼女に車は迷走し、マックスは慌てて車を止める。
「なんて事を!-いったい、どうしたんだ?」
「病院に戻るの…お願い、病院に戻って!」彼女は、何に気付いたというのか?
「いやな予感がするの…お願い!」Uターンする車。
夜の病院に入っていく2人。
「火葬してないのよ」「何の話だ?」こっそり忍び込んだ病理学室で、2人は話し始めた。
「ポールは5日から、新しい規則に変えたのよ-手紙が届いた日だわ」
「どうする?」「死体を確認するわ」「もう無いよ。火葬にしたに決まってる。ポールは母親が殺したと信じてるんだ」「彼は火葬にしなかったのよ。規則を変えたのは、死体を持ち出されないためよ」ポッドを開けようとする彼女を、抱きしめるマックス。
「愛してるよ、心の底から…君のためなら何でもする。-この前みたいに。
お願いだ、約束してくれ。俺がどんなことになっても、助けると」
「マックス、私狂ってる?」「正常じゃなかった」
「OK、ドクター。どうすれば正常だったというの?求婚された日に、彼が別の女と寝ていたのよ」彼女は続けた。「いいこと?あなたは運よく命拾いしたの。」
「狂ってるよ」「怒ってるのよ!…怒りよ。どこに入れたの?」「…8番だ」
彼女がポッドに手を掛けた瞬間、部屋のライトが点灯した。一斉に入ってくるルー、ポール、そして警官たち。手術用のレコーダーの再生スイッチを入れるポール。
「…どうすれば正常だったというの?…」録音されていた2人の会話だった。
「今、言ったのは…」ローリーが前へ出た。「冗談なのよ」見つめるルーとポール。
「いや、ポールよ。彼が殺し、死体を火葬にしたのよ、そうでしょ?」
ルーは悲しげに答えた。「5日に署についた手紙は、タイプで打たれていた。印字鑑定で研究室のものと判明した。
-ポールもそれを認めた。彼は無実だよ。犯人が手紙を出すものか」
5日に警察署へ届いた手紙は、ポールが打ったものだった!
「懺悔のつもりよ!」尚も食い下がるローリー。
凶器に、彼女の指紋があったと告げるルー。「死体がないわ。火葬したのよ!」
「火葬なんかしない。彼女を愛していた」と答えるポール。
「私を陥れる気?証拠もないくせに。ジョイはいないわ!」ポッドを開けるローリー。
ルーは、意を決してトレイを引き出し、一瞬のためらいの後、覆いの布を一気にひきはがす!…両手で顔を押さえ、絶叫するローリー!
(ストップ・モーションで、そのままエンド・クレジット)
【 Staff & Cast 】
◇監督、ジョン・リュウェリン・モクシー (1925–2019)は、主にTV界で活躍。我々に馴染み深いといえば’71年の『事件記者コルチャック・ラス・ベガスの吸血鬼(ナイトストーカー)』”The Night Stalker”。このTVムーヴィーで、彼はアメリカ・TVドラマ史上空前の視聴率を叩き出した。

’79年の『ブラウン神父・恐怖のステージ』(現代のアメリカにブラウン神父が復活する!)などの珍品もあるが、この『キルジョイ』では手堅く的確な演出で、複雑過ぎるほどの錯綜したプロットを、巧みに演出している。
2019年、残念ながら、鬼籍に入られている。
◇脚本は、サム・ロルフ (1924–1993)。やはり、主にTV界で活躍した脚本家。『0011ナポレオン・ソロ』、『アンクルの女』等が有名。
監督、脚本ともに、どちらかと言えばTV界を主な活動の場としてしたスタッフたち。
この傑作は、彼らが日々培ったであろう”TV屋魂”が、見事に炸裂した渾身の一作となったのである。サム・ロルフは、’93年に既に鬼籍に入られている。

◇主演はキム・ベイシンガー。この作品の後、’83年『ネバーセイ・ネバーアゲイン』でボンド・ガールに抜擢!『ナイン・ハーフ』(’85)、『バットマン』(’89)、『L.A.コンフィデンシャル』(’97)、そして最近では電話サスペンスの傑作『セルラー』(2004)に出演している。

また、ポール・トレントン役のジョン・ルービンスタイン(1946- )は、『ザ・カー』(’77)、『ブラジルから来た少年』(’78)、そして’87年のリドリー・スコット監督『誰かに見られてる』に出演。近年は、TVシリーズへのゲスト出演が多い。

マックス役のスティーブン・マクト(1942- )はこの作品の後、『女刑事ギャグニー&レイシー』(‘82~’88)にレギュラー出演し人気を博した。レヴィンソン&リンク繋がりでは『新・刑事コロンボ 幻の娼婦(ビデオタイトル:黒いドレスの娼婦)』で被害者デヴィッド・キンケイド役を演じ、『ジェシカおばさんの事件簿』にも、5回にわたり、ゲスト出演されている。

ポールの母、マーサ・トレントン役に、ナンシー・マーチャンド (1928–2000)。アメリカの多くの劇場で活躍した、生粋の舞台人で、トニー賞ノミネートも数回。TVシリーズ『事件記者ルー・グラント』(1977~1982)でエミー賞を4回受賞。
『ザ・ソプラノズ』(1999-2000)のリヴィア・ソプラノ役でゴールデン・グローブ賞を受賞した。
ロバート・カルプ (1930-2010) ⇒See The Man Run('71)Act.1邦題:トリック・ジャック(その1)の項、参照
【 MEMO 】
◇この作品、フジテレビにてTV放映もされ、ビデオ・ソフトも発売されているものの、開巻直後の殺人シーンから、病院を舞台とした、三角関係の愛憎劇が昼メロ風に展開されていくに及び、個人的には若干、興味を失いかけてしまいました。
確かに、出だしこそミステリー的な興趣が希薄な雰囲気なのですが、それが「ジョイ・モーガン」なる名前の女性を巡って、『彼女が本当に存在しているのか』という不条理な展開を見せ、二転三転どころか、六転七転するプロットに引きずり回されること必至。
正直、これほど先の読めない作品も珍しいのではないでしょうか。
粗筋を書いていても、いつまでたってもロバート・カルプ(『刑事コロンボ・指輪の爪あと』、『同・アリバイのダイヤル』、『同・意識の下の映像』の犯人役)は「謎の男」のままで、書き辛いことこのうえないのです。(笑)
本当に最後の最後まで、その先の展開が予測不能。「謎の男」の件にしても、”ジョイ”の存在の有無にしても、不明なまま終盤まで突っ走る物語は、まるで行き先不明の特急列車に、無理やり押し込められたようです。
(以下、この作品の結末について触れている箇所があります。未見の方は、申し訳ありませんがご遠慮下さい。)
◇『キルジョイ』は、その構造として、
①謎の女性「ジョイ・モーガン」の存在を巡る心理サスペンス
このパートは、ポール、マックス、ローリーの三角関係を軸に、「恋人の浮気に対する、ローリーの嫉妬」を推進力として、彼女を中心に進んでいきます。
そして、ローリー(キム・ベイシンガー)の死体が甦る”どんでん返し”で、一応のクライマックスを迎えます。更に、”謎の男”ルー・カルヴィン=警察官の正体が判明した時点で、第二部ともいうべき、
②「ジョイ・モーガン」が死んだと仮定した殺人事件の犯人捜し(フーダニット)
…に、ストーリーがシフトするのです。既に3/4ほどストーリーが進行したうえで、プロットを収束させんとする力技。その底力には驚嘆の念は禁じえないものの、前半部分との矛盾点(特に登場人物の心理面)も散見される点は指摘されるべきでしょう。
容疑者は、ポール、ポールの母マーサ、マックス、ローリー、そして警察官ルー。
特に前半部分において、絶妙のさじ加減で醸し出された、ポールとマーサの密着した親子関係=「息子に異常なまでに執着する母親と、マザコンの息子」という、サイコ映画に頻出するタームが見え隠れし、視聴者の意識を絶妙にミスリードします。
また、
①ローリーの心理(感情移入しやすい”嫉妬”という感情)を中心に動く前半部分で、彼女に感情移入させる⇒
②一番怪しいポールにトリックを仕掛ける警察官ルーに協力し、死体の役を演じる=視聴者に、彼女は”探偵側”の人間と印象づける⇒
③一旦全員が解散し、マックスとローリーが車で帰り際に、”彼女が何かに気付く”シーン。
…①+②と描写を積み上げたことによって、視聴者をして、ローリーが「探偵役」として”何かに気付いた”と(無意識的に)誤認させ、「探偵役としての彼女」に感情移入するうちに、完全にローリーを”犯人の射程外”に置いてしまうのです。
その、視聴者の心理を計算し尽くしたプロットは、見事という他はありません。
そして、誰が『探偵』で『被害者』で『犯人』なのか、を伏せ札にしたまま、ある意味通俗的な興味を主体とした物語を展開させ、終盤に至って初めて、其々の”真の役割”を明かす-これは、現代的な”フーダニット”にとって、極めて秀逸なメソッドではないかと思われます。
(レヴィンソン&リンクの最高傑作『殺しのリハーサル』も、実はこのメソッドを導入していました)

最初から『探偵役』『被害者役』『容疑者役』と、一人ひとりの役割を固定化してしまうと、視聴者(観客、または読者)から、容易に犯人を看破されかねません。
そこで、意識的に複雑なプロットを仕組み、登場人物のいわば「立ち位置」を変化させ、反転させることで、観る者の”意識をずらす”-”意外な犯人”とは、物語の構造によって観客の意識を操作し、その”外側へ心理を導く”ことであって、決して『探偵が犯人』『記述者が犯人』風の、”固定された人物の役割”のことだけを指すのではない…。
そのことに、改めて気付かせてくれる一編です。
正直、解決の説明を聞いて、すべてを理解できる視聴者は少ないと思いますし、その論理に少々、「穴」が見られる点を差し引いたとしても、絶妙のタイミングでストップモーション~ジ・エンドとなる、この鮮やかな幕切れと”意外な犯人”は、かのエラリイ・クイーンの国名シリーズの”それ”と同種の感動を我々に提供してくれます。
このエンディングで、何もかも許したくなってしまうではありませんか。
確かに、エドガー賞の名に違わない、本格ミステリー映画の傑作です!
ビデオ・レンタル店などで見かけたら、是非鑑賞をお勧めします。
また、ぜひDVD化、Blu-ray化を期待したい、隠れた名作です。
それでは、また。
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謎が謎を呼ぶ展開、登場人物のキャラクタも一筋縄で行かないながら、納得出来るもので
確かに、これはミステリーの傑作だと思いました。
謎の男のロバート・カルプはヒーローも悪役も演じているので、どちらだろうと思いながら見ました。
五里霧中状態が延々続く、なかなか一筋縄ではいかない作品ですよね。終盤、ギュッと収束して、一気に展開しますが…(笑)
ロバート・カルプが謎めいたキャラクターで、場を攫いますね。
ぜひぜひ、DVD化、Blu-ray化を望みたい一本です。
また、ぜひいらしてください。お待ちしております。
>武藤さん
>
>遅ればせながら、作品、見ることが出来ました。
>謎が謎を呼ぶ展開、登場人物のキャラクタも一筋縄で行かないながら、納得出来るもので
>確かに、これはミステリーの傑作だと思いました。
>謎の男のロバート・カルプはヒーローも悪役も演じているので、どちらだろうと思いながら見ました。