THE
TWO
WORLDS OF
JENNIE LOGAN('79)
過去へ旅した女


~ノスタルジックな「時間SF」TVムーヴィーの佳品~
皆様こんにちは。
めとろんです。
この作品『過去へ旅した女』(’79)は、TVムーヴィーとして、1983年にNHKで放送された、隠れた佳品です。
STORY
夫であるマイケル・ローガン(アラン・ファインスタイン)が、学生と浮気しているのを発見した主婦ジェニー・ローガン(リンゼイ・ワグナー)。
彼女は、夫婦の絆を取り戻すべく、マイケルと田舎の古い家に引っ越してきた。

屋根裏部屋で美しいドレスを見つけた彼女は、破れた肩を修繕する。
そして、それを着た彼女は、19世紀末にタイムスリップし、同じ家に住んでいたデヴィッド・レイノルズ(マーク・シンガー)と出会う。
彼女は、ドレスを身に着け、何度もデヴィッドのもとを訪れるうち、彼と恋に落ち、逢瀬を重ねてゆくのだった…。

調べてみると、彼は画家で、妻のパメラを不慮の事故で亡くしていた。
そして、デヴィッドは殺され、犯人は不明のまま現代に至っていた。
そのうち、エリザベス・ハリントン(リンダ・グレイ)がデヴィッドに横恋慕し、その親である有力者ハリントン氏(ヘンリー・ウィルコクソン)によって、彼が目の敵にされていることを知る。
そして、ジェニーの前で、ハリントン氏は明日の夜、新世紀到来の集いにおけるダンスの後、デヴィッドを撃ち殺すと宣言するのだった…!
一方、マイケルは、不可解な行動を取り続ける妻の精神を心配し、その本心を問いただす。

「デヴィッドを愛してるわ。彼も愛してくれてるの。」
「ジェニー…彼はいないんだ。」
「いるわ。ちゃんといるのよ。私はもう彼のものなの。一緒にパリに行こうと言われたわ。でも、このままだと、大変なことになってしまう。あの世界に行って、私はあの事件に巻き込まれてしまったの。決闘の話は本当だったわ。ハリントンさんは、本気で決闘するつもりよ。もし、私が何とかして止めなければ、デヴィッドは殺されてしまうのよ。」
彼女は、デヴィッドの悲劇的な運命を変えようと決意する…。

MEMO

本作品の主人公であるジェニー・ローガン役に、『地上最強の美女 バイオニック・ジェミー』(1976-78)、ジョン・ディクスン・カーの傑作ラジオ・ドラマ「B-13号船室」のTVムーヴィー化作品『アトランティック殺人事件』('92)のリンゼイ・ワグナー(1949- )。

近年は、『ポリスノーツ』('94)の小島秀夫氏が企画・脚本・監督・ゲームデザインを手掛けた、『DEATH STRANDING』(2019)への出演でも知られています。
※NHK放映時の吹き替えは、萩尾 みどり(以下同)

少々、可哀想な夫、マイケル・ローガン役に、『ジェシカおばさんの事件簿』等、ドラマのゲスト出演が多い、アラン・ファインスタイン(1941- )。
※橋爪 功

そして、ジェニーと過去の世界で逢瀬を重ねる二枚目、デヴィッド・レイノルズ役が、『ジョーイ』(’77)、そして『V』シリーズのマイク・ドノバン役で有名な、マーク・シンガー(1948- )。※小林 尚臣
他、リンダ・グレイ※高島 雅羅、ヘンリー・ウィルコクソン※真木 恭介 、アイリーン・テドロウ ※北村 昌子 が出演。

大変、地味な作品ではあるのですが、ノスタルジックな"時間SF"映画として、低予算のTVムーヴィーであることを差し引いても、往年の傑作『ある日どこかで』"SOMEWHERE IN TIME"('80)を想起させる、なかなかの佳作ではないかと思います。
ぼくは、少年時代にNHKで放映された際に初見して、ジャック・フィニイや、広瀬正氏の『マイナス・ゼロ』等を思い浮かべました。あれ程、複雑なタイム・パラドックスは扱っていませんし、過去の世界における美術や衣装なども含め、TVムーヴィー然としたスケールとは言え、過去に対する郷愁に溢れる、ちょっとセンチメンタルな、忘れ難い作品なのです。
◆物語は、ある意味"時を越えた不倫ドラマ"と言って良いかもしれません。

ジェニーは、デヴィッドを愛してはいますが、現代の夫、マイケルとの愛も捨ててはいないのです。この彼女の葛藤が、どういった結末を迎えるのか…ジェニーの、夫への(時を越えた)思いやり。そして、時間SFならではの秀逸な「仕掛け」が素晴らしい。
ただ、ジェニーというヒロイン、マイケルの立場から考えると、少々勝手というか、「愛は盲目」というか(笑)エゴイスティックな行動ではないかと考えてしまいます。
でも、八方美人的な、どっちつかずの関係を続けることも、また相手を傷つけることになると考えれば、愛ゆえに「別の世界」に旅立った彼女の軌跡も、ひとつの潔い決断だったとも思えるのです。
ー時の断絶の果てに去ってしまった、愛しい人への、万感たる惜別の想い。
そんなロマンティックな眼差しを共有できる「オチ」は、まさに「SFは絵だねえ。」の名言を体現した、ラスト・シーンでした。

◇なお、この作品の脚本・監督は、フランク・デ・フェリッタ。
オリヴァー・リード主演『赤ちゃんよ永遠に』(’72)の脚本、アンソニー・ホプキンス主演の輪廻転生オカルト・ホラー『オードリー・ローズ』(’77)の原作・脚本、『エンティティー/霊体』(’82)の原作・脚本、シャロン・ストーン主演の『シザーズ/氷の誘惑』(’90)の監督・脚本も手掛けられています。

2016年、94歳で残念ながら、鬼籍に入られたようです。
このラインナップを振り返ると、本作品独自の"タイムスリップ"に感じられる「霊的」なものは、この方ならでは、という気がします。
「ドレスを着ると時間を越えられる」という設定は、SFとは微妙に趣きが違う、オカルト/ホラー的な色彩を多分に感じさせるものでした。
もし鑑賞する機会がありましたら、ぜひ。
それでは、また。
※この記事は、2006年03月13日に上梓された同記事の改訂版です。
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