シリーズ 脚本/シナリオを読む。(3)
THE FRONTLINE OF
SPECIAL INVESTIGATIONS
特捜最前線

~脈動する、魂のロジック~
付録:『特捜最前線』鑑賞記録
皆さま、こんにちは。
めとろんです。
「シリーズ 脚本/シナリオを読む。」(3)は、『特捜最前線』長坂秀佳氏の脚本による傑作エピソード、「殉職Ⅰ 憎しみの果てに、愛!(放送タイトル 殉職Ⅰ・津上刑事よ永遠に!)」、「殉職Ⅱ 帰らざる笑顔!」です。
【第146話】殉職Ⅰ 憎しみの果てに、愛!
(放送タイトル 殉職Ⅰ・津上刑事よ永遠に! )
【第147話】殉職Ⅱ 帰らざる笑顔!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

津上刑事(荒木しげる)、殉職編。
まずは、コロナ禍の現代に響く、細菌兵器の脅威。『快傑ズバット』等の特撮ヒーローものを手掛けた長坂氏ならではの、「悪の組織」による、大量殺戮細菌兵器による犯罪!
大量殺人の悪夢が迫る、比類なきサスペンス。特命課刑事たちによる必死の捜査が続くが、なかなか解決の端緒は開けない。
そして、瞠目させられるのは、監視された津上刑事が、危機的状況を特命捜査課の面々に伝える手段。独創的なそのアイデアには驚かされた。

そして、後編。意外な犯人にたどり着く過程で、亡き津上刑事の一言ひとことが、残された刑事たちの頭に浮かび、それが重要なヒントとなっていく。
刑事たちの、哀しみと焦りが入り混じった独白をナレーションとして響かせ、観続けてきた視聴者を引きずり込み、同期させずにおかない。

シナリオとして読むと、論理的な整合性よりも、「映像による飛躍」と「うねる情動」がドライブし、少々の矛盾やご都合主義も吹き飛ばす勢いの凄まじさが、いわゆる「長坂節」なのであろう。
ただし、本エピソードは長坂脚本の系譜のなかでも、いわば「冒険編」とも言うべき特色があり、驚嘆のミッシングリンクが明かされる意外性や、当時の最新機器を使用した斬新なトリックなどを駆使した、言わば「推理編」のエピソードとは、自ずと趣きが異なることは銘記すべきであろう。

津上刑事の母親への敬慕と、犯人の親としての子への愛情がつながり、呼応するドラマ性が、古風とも受け止められるかもしれないが、無差別殺人やサイコパスの犯罪ばかりにリアリティを帯びた、殺伐とした犯罪が横行する現代においては、どこか懐かしさと温かみを感じられる動機に、不思議と安心させられる。
そして、津上刑事の正義感、そのひたむきさと優しい人間性が、そのまわりを包み込む刑事たちの姿によって、よりくっきりと浮かびあがる。それは、演じた荒木しげる氏と俳優陣はもちろん、脚本・演出およびスタッフたち全員の、彼に対する愛情の結晶であり、現在も、観る我々の心を打つのである。
【 付録:『特捜最前線』鑑賞記録 】
※『特捜最前線』の感想を綴るにあたり、僕は、この作品を全編網羅した、シリーズ史的な認識には欠けている事を告白せねばならない。
また、『特捜最前線』に関する、考察鋭いサイトが綺羅星の如く、数多存在していることも承知しています。
以下、あくまで自分自身が鑑賞し得たエピソードに対する敬意と、短い感想の断片である。
特に、『少年探偵団』を少年時代に夢中で観ていた関係で、思い入れの深い、長坂秀佳氏の脚本回をメインとした鑑賞であることを、ご容赦願いたい。
既に鑑賞済みで、感想を追加していないエピソードも多く、今後、随時更新していく予定です。
尚、『特捜最前線』の魅力を、最初に僕に教えてくださった、砂時計( @y_m_sunadokei )様に、心より、感謝の意を表します。
【第1話】愛の十字架
(脚本:宗方寿郎 監督:永野靖志)

初回エピソードは、特命課の結成が描かれるかと思いきや、神代(二谷英明)は既に課長で、刑事の何たるかを叩き込まれた先輩、西田(中村竹弥)の暴力団との癒着を捜査。
刑事として許されない行為に踏み込んだ西田を追及する中で、葛藤する神代…。
初々しいキャスト陣とひたすら渋い神代警視正、そして豪華なゲストを取り揃えながら、地味な出来映えではあるが、今から思えば貴重なエピソードである。
【第29話】プルトニウム爆弾が消えた街
【第30話】核爆発80秒前のロザリオ
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

核再処理工場が襲撃され、所員の重森(西田健)が失踪。犯人グループの生き残り・秋本も死に、事の重大さが判らない刑事たちと、焦燥する神代。実は、工場からはプルトニウムが盗み出され、一両日中に、核爆弾によって東京は焦土と化す、なる声明文が、届いていたのである。
『太陽を盗んだ男』('79)に遡ること2年。
長坂氏の「前後編にすれば良い」とのアイデアから長尺となり、佐藤監督も前編の原爆製造のくだりを丁寧にやろうと注力したと言う。その迫真性は、フィルムに焼き付いている。
平和実現の為に"核"を利用する理論派の欺瞞と、"核"による焦土の先に正義の革命を描きながら、特定のセクト主義に堕す欺瞞。
肉体の欠落した対立は、後半における核爆発のリアルな恐怖を前に吹き飛ぶ。

寓意に富んだプロットの妙をも越えて、自家製原爆製造の描写の強烈なリアリティ、そして後半の、東京消滅の幻像に脅えつつ歌舞伎町を疾走する、犯人(西田健)と神代の生々しい迫力に圧倒される。
ここで幻視された崩壊は、今や現実だ。
そして手製の原爆が入ったバッグを手に、都内を彷徨する犯人の存在の、底知れない虚無にも、心を打たれた。
【第50話】兇弾Ⅰ・神代夏子死す!
【第51話】兇弾Ⅱ・面影に手錠が光る!
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

三丸商事の大田黒社長が、息子の死に関わっているとして、社長宅に小さな爆弾を仕掛ける老夫婦。拳銃密輸が絡んだ疑惑の中で、恋人が死んだばかりの神代の娘・夏子(岸田奈帆子)が被害者家族である老夫婦に付き添い、そして銃撃の標的となってしまう…。
長坂脚本は、本格ミステリのゲーム性と、"1人の人間の死の重み"を、執拗に両立させんとする。
後編の最終盤で連呼される、被害者・夏子のプロフィールは、日常の"死"を隠蔽してきた視聴者への告発であると解釈した。
…が、長坂秀佳『術』を読むと、監督がカットをかけなかった為、二谷氏が意地となって、アドリブを必死に言い続けたとのことだが…(笑)
それが、最も印象に残るひと幕となったのは、皮肉であったかもしれない。
兎にも角にも、彼女の"死の舞踏"は、歴史に残るべき絶品の美しさであった。
このエピソードの発想の発端は、長坂氏曰く、「撃つぞ!」と犯人に言われても、堂々と近づいていく神代課長に嫌気がさしていたと。「ならば、最も撃たれたくない人物は、その娘だろう」と…。
やはり、当時の刑事ドラマへのアンチテーゼであり、それが「被害者が必須」である、本格ミステリへのアンチテーゼに、結果的になったことが、興味深い。
血肉ある人間が、事件に巻き込まれ、死ぬ…その重さを描き切った、稀有なエピソードであると思う。
【第53話】背番号のない刑事!
(脚本:塙五郎 監督:村山新治)

塙五郎脚本回。詐欺グループに張り込みしていた津上刑事(荒木しげる)が失敗。一味の木島(森山周一郎)を追い、彼の息子の野球試合に赴くと、それを阻む男が現れる。木島の親友で、過去にバッテリーを組んでいた橘、長崎県警の刑事であった…。
橘警部初登場の記念すべきエピソード。
今回はまさに、映画『第三の男』('49)の本歌取りである。
森川周一郎氏演じる犯人も良い味で、我が子へのメッセージにも涙を禁じない。
"あの低音"が響くとき、自ずと人生の悲哀と、いぶし銀の風格が漂うのである。
【第54話】ナーンチャッテおじさんがいた!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

電車内でチンピラを注意した男が袋叩きにされ、その後、脳内出血で死んだ。その息子が、毎日のように、「犯人を捕まえて」と特命課に手紙を出すが、皆、犯人たちを恐れてか目撃証言は集まらない。そんなある日、息子は、不思議な老人と電車で出会う。
子どもと老人がメイン、泣かせる事は容易と言われるシナリオ作法だが、この緻密な組み立て、その訴えの身に沁みる重さは比類無い。視聴者はもちろん、俳優陣も感情移入し易く、入れ込める脚本なのではないだろうか。電車内での謂れ無き暴力で、息子を亡くした老人の死はショッキング。その事件によって立ち上がる、西田敏行氏扮する高杉刑事の行動が感動的だ。没になったという、長坂氏が書いたもともとのコメディ脚本も、読んでみたい。(笑)
【第62話】ラジコン爆弾を背負った刑事!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

過激派「黒の義勇軍」が、平和主義者ハワード神父を暗殺する為、爆弾付きラジコン乗用車で襲おうとする、そのアイデアがまず秀逸である。彼らのアジトを探し出し、特命課の刑事が潜入捜査に挑む。
いつバレるか分からない、息詰まるサスペンスと、逆「暗鬼」(『カムイ外伝』のエピソード)とも言うべきシチュエーションが面白い。橘警部の活躍が胸に残る。
若き日の岡本麗さんが、悪役ながら美しい。
【第70話】スパイ衛星が落ちた海!
(脚本:長坂秀佳 監督:村山新治)

某国のスパイ衛星が、堂ヶ島温泉付近に墜落。紛失したマイクロフィルムを収めた機密メカを巡り、CIA、KGBの暗躍の中、政府からの要請により、特命課の必死の捜査が開始された。
そして、「空の死神」と名乗るグループから、30億円の要求を記した紙片が発見される。
現地に潜入した橘警部は、10年前の横浜での戦闘機墜落事故で肉親を喪った少年とその遺族に接触し、交流を深めるのだが…。
スケールの大きな国際的な事案を扱いながら、暴走族や少年など、ローカルな雰囲気横溢なエピソードである。
だが、そのテーマは社会派というべき先鋭的な内容で、かつ重い。
日米地位協定における矛盾を、「空から堕ちてきた死神」として復讐しようとする犯人が、その行為によって報いを受ける。
対する、神代の決断が、胸を打つ。政府側の高官も、大国に対して弱腰の姿勢を糾弾されながらも、崖っぷちで「正義の側」に立つ。
それは、やはり長坂氏の”祈り”とも言うべき理想であろう。それが、あくまで「個」に対する配慮、という範疇であったとしても…。
なお、軍事衛星を巡る暗闘を背景にした傑作、『相棒』スペシャル「サザンカの咲く頃」(2007)を鑑賞した際、真っ先に想起したのはこのエピソードであった。
東映印の刑事ドラマの遺伝子の継承を、感じた一編である。
【第74話】死体番号044の男!
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

橘警部(本郷功次郎)メインのエピソード。
橘と瓜二つで事故死した男になりすまし、犯罪グループに潜入する彼は、幽閉された、死んだ男の息子に出会い、心通わせる…。
潜入捜査がバレそうになる危機また危機だが、心に残るのは、実の息子とうまくいかない橘、父を亡くした少年との束の間の交流。
長坂氏は「父と子」のドラマを好んで取り上げるが、どちらかと言えば父親の心理と、その在り様に関心があるように思われる。
【第80話】新宿ナイト・イン・フィーバー
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

平凡なサラリーマンが、たまたま手に入れた銃。一発撃つごとの、残弾の克明かつ冷徹なテロップが、現代のTV的常識を逸脱して秀逸だ。
銃器が持つ危険性と非人間性を訴えた、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク脚本・製作の社会派TVムーヴィー、『ザ・ガン/運命の銃弾』(’74)に一挿話として加えたい、異様な迫力を持つエピソードである。
犯人に同情を示しさえする、一夜を共にした顧客女性を、容赦無く射殺した時点で、予定調和的結末は否定される。
ラストにおける、情緒性を排した、冷酷とも言える描写に痺れる。
刑事ドラマの枠組を外してしまえば、まさにアメリカン・ニューシネマ的なヴァイオレンスドラマだと思うのだが、そこに東映刑事ドラマのフィルターがかかる事がマイナスでなく、不思議な双方向のドラマになっている点に瞠目する。
塚本晋也監督の『バレット・バレエ』もちょっと想起させる、これもまた重量級の傑作である。
【第85話】死刑執行0秒前!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

見つかった14年前の白骨死体。死刑囚の無実を示唆する発見に、船村刑事(大滝秀治)は色めき立つが、死刑執行まで、あとほぼ一日しかないと告げられる。自らが信じるホンボシを、それまでに落とすしかない…船村は、ある人物のもとへ向かった。
タイムリミット・サスペンスとしても、1対1の人間ドラマとしても秀逸。この筋立てだと、船村刑事と死刑囚との繋がりのドラマになりそうだが、長きにわたる犯人との交情がメインになるのがグッと展開を引き締め、素晴らしい。
登場人物1人ひとりの心情が、観る者の心を激しく揺さぶる。須藤検事役の菅貫太郎さんが、憎々しくもプロフェッショナルで、ドラマをがっちり支える敵役として映える名脇役。
【第86話】死んだ男の赤トンボ!
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

長坂秀佳氏による脚本で、西村晃氏扮する財閥の社長が、浮浪者風の服装で捜査の巻き添えで死ぬ。
その間際、口ずさんでいた赤トンボの唄の謎。鬼社長と言われた彼の人生を、刑事たちが辿ってゆく過程に、見応えがある。
長坂版『市民ケーン』(’41)と言えようか。所謂、人間ドラマとしての色彩が濃いエピソードだが、その構成の構築美、そして西村氏の名演に心打たれる。
【第88話】私だけの三億円犯人!
(脚本:塙五郎 監督:天野利彦)

塙五郎脚本は、現実の"三億円事件"と、ドストエフスキー著『白夜』的恋愛を結びつける荒業を見せる。
浅野真弓さん扮する青木三枝子の行動が余りに不可解で、歴史的事件も曖昧な結末を迎えるが、船村刑事の共感と、ラストの橘警部のひと言で締まった好編。
三億円犯人が犯行の後、世間から忽然と姿を消してしまった理由の秀逸なアイデアが、大変に面白く、感心した。
【第90話】ジングルベルと銃声の街!
(脚本:長坂秀佳 監督:佐藤肇)

トランペッターの村島が銃殺され、その弟子・浅野が疑われる。音楽を愛する津上刑事(荒木しげる)が捜査にあたると、浅野のアパートの住民たちが、アリバイ証言をする。…
何ともニクい、意外にも爽やかな結末。
クリスマスらしいハート・ウォーミングな一編であり、よく云われるように某名作ミステリの本歌取りである。
熱い男たちの刑事ドラマと、ブリティッシュな本格ミステリの融合。だが、取ってつけたような違和感は無く、スムーズに日本の庶民のドラマとして成立しており、驚かされるのである。
【第106話】完全犯罪・ナイフの少女!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

少年院から出所した少女・有本れい(山本みどり)に殺人の嫌疑がかけられ、娘とも想い寄り添う、船村刑事(大滝秀治)が捜査を展開する。
トリッキーな内容の本エピソードだが、印象に残るのは、船村の想いを込めた、シュートである。
血の通った人間ドラマの側面と、ロジカルな推理ドラマの両面を併せ持つ、『特捜最前線』の世界は、観る者が年齢を経るほどに、その豊穣さを増す旨味がある。
【第107話】射殺魔・1000万の笑顔を砕け!
(脚本:大原清秀 監督:佐藤肇)

脚本の大原清秀氏に注目。個人的なお気に入りの作品、りんたろう氏演出のアニメーション『吾輩は猫である』('82)の脚本を担当された方である。
しかも演出が『吸血鬼ゴケミドロ』(’68)の佐藤肇監督であり、本シリーズでも多数のエピソードを担当されていると知る。
筋金入りの『特捜』ファンの方の、高評価も納得の傑作であった。
サイコパスな射殺犯に北見敏之氏、チョイ役で塩見三省氏も出演されていて、両名とも、『NHK連続テレビ小説 あまちゃん』に出演された。数奇な縁である。(笑)
精神を病んだ犯人に寄り添うサイケデリックな映像と、秀逸なミッシング•リンク解明と、関連しての重要な舞台としての新宿末広亭!
動機となる女性の他人事感からの、苦い結末がやるせない。何とも濃い空間。
このエピソードにおける桜井(藤岡弘)は、まず誰かを射殺し易い人物である。(笑)
【第110話】列車大爆破0秒前!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

一般公募の原案から、長坂秀佳氏が脚本を担当した一編で、爆破予告から、滝刑事(桜井健一)の先輩刑事が爆死する、緊迫した幕開け。
特に前半、時刻&場所テロップの多用•激しいカット割りで岡本喜八テイスト横溢の一本。滝刑事が若気の至り的な活躍を見せるが、桜井刑事(藤岡弘)が見せ場を攫っていく。お馴染みの「爆弾もの」と思わせて、意外な展開を見せる。
ミステリ的には、容疑者特定のヒントとなる、無線電波妨害装置の配置が素晴らしい。
事件の後処理も、逮捕後の自白シーンなど挿入の必要なしと思わせる凝縮感は流石である。
【第114話】サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

アクション主体の籠城ものと思わせて、犯人を射殺した桜井刑事に対する査問委員会で、その正当性を問う"裁判劇"が展開する。黒澤明監督の『羅生門』('50)的な、目撃者たちの証言の食い違い。
検証の過程であぶり出されていく意外な、また哀しい真実。細かい変化を加え何度も反復される射殺シーン。緻密な脚本、そして細かい編集で極めて構築的なドラマであることに、改めて感動した。
そして、余計な後日談で愁嘆場に流れることなく、ラスト・シーンがその発砲の瞬間で終わる鮮やかさ、余韻。素晴らしい。
【第118話】子供が消えた十字路
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

これは、凄まじい傑作である。
この異様なテンション、スピード感と高密度な内容に驚嘆した。
そして何より、船村刑事役である、劇団民藝の重鎮・大滝秀治氏の力演に圧倒される。
冒頭、車で轢いた自転車の少年を連れ去る男。目撃シーンの反復から、大怪我をしたであろう少年を救うタイム・リミットをめぐる追跡劇へ移行する。
その強烈な、迫真的なサスペンスは、思わず胸が痛くなるほどだ。
最大の手がかりが、冒頭における事故のシーンに回帰する構成も美しい。
ラストで、船村刑事の切実な想いに、不覚にも泣いた。少年の安否には触れないで、そのまま終わる幕切れも、秀逸である。
【第124話】顔切り魔・墓場から来た女!
(脚本:藤井邦夫 監督:長谷部安春)

真夏、夜な夜な剃刀で女性の顔を切りつける、長い髪で白装束の通り魔事件が発生!
ホラー風味の一編で、カンコこと高杉婦警(関谷ますみ)ピンチ!のエピソード。
…彼女の反撃も観たかったが、そこは時代か、撃退するのは特命課の面々である。彼女が、『特捜最前線』におけるスクリーミング・クイーンの役どころであろう。
『怪奇大作戦』における個人的な偏愛エピソード「美女と花粉」や、セバスチャン・ジャプリゾ原作の『シンデレラの罠』などを想起させる。
部屋に鏡がない理由や最後の罠など、なかなかにトリッキーな内容であった。
【第127話】裸の街1・首のない男!
【第128話】裸の街2・最後の刑事!
(脚本:塙五郎 監督:天野利彦)

休日にサイレン音を聴き、具合の悪くなった妻を置いて、捜査に向かう船村刑事。
新聞に包まれた、注射痕のある腕が、足立区で発見された。特命課が捜査を開始し、ある貧しく、父親が消えた家族に行き着く。そして首が発見された時、船村は、妻と一緒に過ごしていた。妻は癌で、もって一年と医師から告げられたのだ…。
前編の組織捜査から、後編の被疑者を絞っての展開が鮮やかである。
最後までセンチメンタルに流れない、本シリーズのメインライターの一人、塙五郎氏の脚本と、天野利彦氏の演出が胸に刺さる。
『主任警部モース』の傑作、第21話「デッド・オン・タイム」(脚本ダニエル・ボイル、演出ジョン・マッデン)を、想起させるエピソードである。
エンディングの「私だけの十字架」が、いつもより一層、胸に染みる名編。
【第129話】非情の街・ピエロと呼ばれた男!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

紅林刑事(横光克彦)が、暴力団の抗争に端を発する爆弾事件に、慣れない潜入捜査を試みる。
潜入がいつバレるか、爆弾が何処に仕掛けられているのかの強烈なサスペンス。そして、最後は子どもたちが危機に陥る展開となる。
潜入捜査のポジションを、クソ真面目な紅林刑事に振るという意外さが、微苦笑とサスペンスを生んだ好編。
横光氏の、いかにもなオーヴァー・アクションのコメディ的演技の裏に、ぎこちなさと焦燥感を絶妙にブレンドして素晴らしかった。
そして、爆弾回収と同時にストップモーションでジ・エンドの幕切れが、潔い。
【第131話】6000万の美談を狩れ!
(脚本:長坂秀佳 監督:宮越澄)

元刑事の警備員が、勤務先の大学の屋上から転落…。他殺か、自殺か…。
どちらともとれる事件を、橘警部(本郷功次郎)と桜井刑事(藤岡弘)の、緻密な論理対決=骨太の人間ドラマとして、等しく描く傑作である。
二転三転するプロットも、複雑怪奇で先読みは全く不可能。厳しく意外な結末が、人生の皮肉さを、巧みに描いた短編小説に似た感慨を抱かせる。
【第133話】六法全書を抱えた狼!
(脚本:長坂秀佳 監督:野田幸男)

吉野刑事(誠直也)が、女性を狙い法律の鎧で身を固めた、エリート司法修習生・五条(夏夕介)に熱い闘いを挑む。
法理論の上での対決から、最終的に肉弾戦に突入する流れは大胆だが、その主張は肯ける部分も多い。ボロボロになりながらも、五条に挑む吉野役・誠直也氏の演技が熱く素晴らしい。
この、庶民側に常に寄り添う脚本・長坂秀佳氏の作家としての姿勢に感動させられる。
【第136話】誘拐Ⅰ・貯水槽の恐怖!
【第137話】誘拐Ⅱ・果てしなき追跡!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

産婦人科医の長男が誘拐され、水道から垂らされたホースで水が溜まったタンクで溺死する。
さらに、次男までもが誘拐されてしまう。犯人は、5000万円を要求。
タンクの中で、死に近づく次男。
特命課の刑事たちは、犯人を特定し、子どもの命を救うことが出来るのか…!
犯人と被害者、両者を繋ぐ運命的な「罪と罰」の綾…その重量級の結末は、観る者の心を押し潰し、裂傷を負わせずにはおかない。
前後編を通じて、プロットを構成する諸要素の過剰さが臨界点に達する。
まず子供が死ぬ。
被害者と犯人のドラマから、誘拐され、刻一刻と死に近づく次男。
両親の悲壮。
ホームでの身代金受け渡しプロセスの緻密と、犯人をひたすら尾行する過程のディテールと、刑事たちの個性的ファッション。
神代警視正の苦衷。
長男の死に続き、次男の死が迫る。
そして明かされる真相。
そして、放送当時でさえ、物議を醸したであろう、子どもを追い込む情け容赦の無さ。
冒頭で呆気なく死ぬ長男の存在があればこそ、視聴者は次男の行く末に戦慄を覚え、画面に釘付けにならざるを得ないのである。その計算されたサスペンスの迫真性は、比類がない。
付け加えれば、長坂秀佳氏が標榜する、「命懸けで子どもの命を救おうとする、大人たちの物語」の代表的な傑作でもあろう。
【第141話】脱走爆弾犯を見た女!
(脚本:長坂秀佳 監督:宮越澄)

殺人の目撃証人が、酔いどれホステスだったら…という本格ミステリ世界+市井の庶民という唯一無二のパターンと、『夜空の大空港』('66)的、複雑な起動設定爆弾付きバスへと、意外な展開である。
盛り沢山の流れだが、嘘つきホステスの哀愁が、1番心に残るのが凄い。
酔いどれホステス・アンナが犯人たちの計画を小耳に挟むが信じてもらえない展開は、アナトーリ・リトヴァク監督の『私は殺される』('48)も想起させる。
複雑なモチーフの組み合わせが興味深い。
【第146話】殉職Ⅰ 憎しみの果てに、愛!
(放送タイトル 殉職Ⅰ・津上刑事よ永遠に!)
【第147話】殉職Ⅱ 帰らざる笑顔!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

【第148話】警視庁番外刑事!
(脚本:長坂秀佳 監督:青木弘司)

夏夕介氏が演じる叶旬一刑事、初登場エピソードである。
捨て子として養護施設で育ち、権力を振りかざす者に対しては、容赦なく拳を振り下ろす。弱い者には底抜けに優しい。そんな烈しい問題児、叶が新たな場で、少しずつ馴染んでいくような、イベント的な位置付けのエピソードかと油断したら、登場初回にして、ここまでハードに、そのキャラクターを突き詰めるのかと愕然とする。
『スタンド・バイ・ミー』('86)的、幼馴みにまつわる青春犯罪ドラマだが、無差別殺人に発展するのが極端である。(笑)
【第153話】上野発"幻"駅行!
(脚本:長坂秀佳 監督:青木弘司)

桜木健一扮する滝刑事がメインで、欧州映画のようなしっとりとした恋愛を絡めた回。
古典的フィルム・ノワールを想起させ、ロジカルな面は少ないながら、強く感情移入させられた。
流れる、カルメンマキの「夜が明けたら」に痺れる。
【第155話】完全犯罪・350ヤードの凶弾!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

このエピソードは、明確に倒叙フォーマットである。
火薬量の推理、発砲地点の特定、そして意外な動機に至るまで、凶器のライフル銃へと収斂していく構成が美しい。
権力を手にする大物政治家に徒手空拳で対峙する橘警部に、胸が熱くなる。
『刑事コロンボ』某名作を連想させる決め手も鮮やか。『術』(辰巳出版)によれば、本郷功次郎がガンマニアであることから出来たエピソードとのことである。
【第160話】復讐Ⅰ・悪魔がくれたバリコン爆弾!

【第161話】復讐Ⅱ・五億円が舞い散るとき!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

人の動きを感知し、爆発する爆弾というアイデアが素晴らしい。幹子(関谷ますみ)の、必死ゆえの「お茶っ葉くらいで威張んないでよ、あんたなんかに奢る気ないんだから!」との台詞に、却って他の人が、怒って部屋に飛び込んできそうで怖い。(笑)
後半の、爆弾無力化プロセスの極度の緊迫感、大爆発の危険を前に、1人として逃げない刑事たちが感動的。
犯人役は三ツ木清隆氏で、やっている事はえげつないにもかかわらず、その動機の悲劇性とともに哀愁と不思議な爽やかさを残す。
【第163話】ああ三河島・幻の鯉のぼり!
(脚本:大原清秀 監督:佐藤肇)

昭和37年に発生した「三河島事故」を材に取った物語。
現在の殺人事件に関わる、事故の身元不明遺体を追う中で浮かび上がる一組の兄妹。何故、身元が判らなかったのか…の理由が秀逸且つ泣ける。結末の意外な裁断が、複雑な余韻を残す。犯人側にも真っ当なドラマがあった時代が懐かしい。今や、SNSを操る享楽的な愉快犯や、サイコパスな殺人者に圧倒的なリアリティがあって、何ともうそ寒い時代になったものだ。

【第164話】再会・容疑者は刑事の妹!
(脚本:阿井文瓶 監督:青木弘司)

亡き津上刑事(荒木しげる)の妹、トモ子(立枝歩)が第一容疑者になってしまう、驚きの展開。
事件に関しては、偶然に負い過ぎる点や返り血の処理に言及がない等、欠点もあるが、意味が複数回、反転するダイイング・メッセージの仕掛けが秀逸である。
今回のメイン、吉野刑事(誠直也)とトモ子の心の交流が温かく、そちらの方が心に残るエピソードである。
【第167話】マニキュアをした銀行ギャング!
(脚本:長坂秀佳 監督:田中秀夫)

銀行から、奇抜な手段で現金を強奪する、その合体技とも言うべきアイデアが面白い。
また、"犯人の監視下で、如何に気付かれず連携するか"の仕掛けとサスペンスがまた秀逸。
時刻内容を示すテロップも、半ドキュメントタッチで鋭い。
【第169話】地下鉄・連続殺人事件!
(脚本:長坂秀佳 監督:宮越澄)

まずは、実際の東京地下鉄駅での連続殺人という素材が34年前とは言え、凄まじい。
被害者同士のミッシング・リンクを巡る謎から、容疑者と滝刑事の"尊厳"を賭けたドラマへ。終盤で明かされる「真相」はまさに圧巻。いきなり無音になる演出が、痺れるほど素晴らしい。
愛すべき滝刑事、退職。
様々考えさせられた。"誰が犯人か"を疑う行為は遊戯たり得るが、"相手が犯人でない"と信じる行為は、自らの"生"の立脚点を侵食するほどの重大事であろう。
滝刑事は、ある意味で「アンチ・ミステリ」庶民派とも言うべき存在なのかもしれない。
【第170話】ビーフシチューを売る刑事!
(脚本:塙五郎 監督:天野利彦)

血気盛んな叶刑事(夏夕介)と、いったん退職した、元特命課の船村刑事(大滝秀治)との、変則バディものの趣。
船村の説く、「純粋な正義の怖さ」は、現代に蔓延するSNSの問題へのカウンターとして、今こそ胸に響く。
制度と個、権力と庶民がせめぎ合うも、枠組は秀逸なミステリ。登場する容疑者からその家族、また関わる人々のそれぞれのドラマを怠らず描く密度の濃さに、驚愕する。『特捜』を愛する大倉崇裕氏の描く、『福家警部補』シリーズの、福家が聞き込みする人々の細やかなドラマに、同じくそれを見る。
【第172話】乙種蹄状指紋の謎!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

犠牲者が続くビル荒らし事件で、金庫に指紋が発見され、色めき立つ特命課だったが、それは「乙種蹄状指紋」。その指紋を持つ元・金庫破りを船村は知っていた。…森田源三(織本順吉)。無実を訴える彼に、船村は執念の捜査を開始する…!
映画では名バイプレイヤーの印象強い名優・大滝秀治氏の主演で、その持ち味を存分に生かしたエピソードのひとつである。
本格ミステリと人間ドラマが絶妙に融合した傑作。容疑者家族へのクールな描写と、その緻密な組み立てに感嘆させられる。
【第174話】高層ビルに出る幽霊!
(脚本:長坂秀佳 監督:村山新治)

スタイル抜群・関谷ますみさん演じる高杉幹子のサービスショット満載!
ファッション七変化、号泣・絶叫・アクションと、ファン感涙の、恒例、真夏のホラー・シリーズ。
古典的謎解きに、『少年探偵団』(BD7)を想起する。犯人、既に大金を手にしているのだから、早く逃げたら良いのに…(笑)と、考えてはいけない。
【第177話】天才犯罪者・未決囚1004号!
(脚本:長坂秀佳 監督:青木弘司)

これまた、名作の誉れ高き作品。
お馴染み橘警部の潜入物かと思わせて、"名探偵対名犯人"の智略を尽くした対決へと移行する。
犯人を演じる梅野泰靖氏の憎々しい名演に浸る。
名探偵あればこその、犯行計画が凄い。ブツ切れのラストにも感動。
梅野氏は、大好きな『人間狩り』('62)に出演され、三谷作品の常連でもあり、何より『刑事コロンボ』のロバート・カルプの吹き替えをされた方である。
その梅野氏が、奸智に長けた名犯人・小田島を演じるとは、両作品のファンとしても、歓喜雀躍なエピソードである。
…私はラスト、小田島が1人ほくそ笑んだ後に、万歳をするのではと予想したが、それを上回る結末であった。
【第186話】東京・殺人ゲーム地図!
(脚本:長坂秀佳 監督:田中秀夫)

長坂秀佳氏の脚本特有の、犯行現場に関するミッシング・リンクの妙を、存分に堪能できる傑作。
町田警部(小林昭二)とキングアラジン(田口計)の豪華絢爛な競演!
『刑事コロンボ』で言えば、「ネッド・ダイヤモンド」と「魔術師サンティーニ」の競演であり、その胡散臭さも半端ない。(笑)
そして、"殺人"の残酷さと、"遊戯"の軽さの交錯が、一種シュール・リアリズムな域まで達し、異様な迫力があった。
【第188話】プラットホーム転落死事件!
(脚本:長坂秀佳 監督:村山新治)

極めてデリケートな手つきによる「倒叙推理」、レヴィンソン&リンク的「罰せられたい犯人」のドラマ。
探偵役・紅林刑事(横光克彦)と犯人・新条(勝然武美)が同期し、コインの裏表のように、お互いに疲弊していく過程が秀逸。関係者の誰もが共犯者となる、シュチエーション設定の絶妙さに唸り、それぞれの葛藤が胸に迫る。
このエピソードを観ると、『福家』シリーズの人間ドラマ的な豊潤さは、『特捜最前線』のそれと近づいている気がする。
それは現在進行形の、社会における様々な課題、問題群と、過去のそれとの距離感と近似値が錯綜する、稀有な瞬間なのだと思われる。
そして特に、「罪と罰」を問うドラマに、人肌の温もりが漂う救い…が、今も継承されている気がするのである。
【第205話】雪国から来た逃亡者!
(脚本:長坂秀佳 監督:宮越澄)

傑作短編小説の読後感に近い。被害者、容疑者とその家族、そして追う側のドラマが過不足なく詰め込まれた渋すぎるプロット。
叶刑事の独白を多用した、高密度の情報量に感嘆する。その上で、叶が知り得ない母親の号泣に、涙腺決壊した。
【第208話】フォーク連続殺人の謎!
(脚本:長坂秀佳 監督:野田幸男)

橘の同期が次々、フォークによって刺殺される事件で、"自覚なき犯罪"の是非を問う。
ミステリとしては何故、凶器がフォークなのか…秀逸なホワイダニットであり、被害者たちに共通したミッシング・リンクの謎を探る物語である。
改札の駅員の(物語上の)配置など、何とも絶妙でうっかりと騙される。
やはり長坂脚本は、テクニカルな面と、心情に訴えかける(ある意味、古風とも思える)ウェットな面が、鮮やかに合致している点が、驚異と感じる。
【第210話】特命ヘリ102応答せず!
(脚本:長坂秀佳 監督:村山新治)

長坂脚本で、またもや少年の生命が危機に陥る。
『術』を読み、「少年を救う為に、必死に戦う大人たちのドラマ」への思い入れも理解出来る気がする。
ヘリ内での格闘が凄まじい迫力。
余韻を否定する幕切れも素晴らしい。
紅林刑事の侠気に、涙。
【第211話】自供・檻の中の野獣!
(脚本:塙五郎 監督:辻理)

民藝の大滝秀治氏と、文学座(→雲→昴)の小池朝雄氏が、取調室で延々、対決の火花を散らすという、これ以上ないシチュエーション!
静謐な大滝氏、対峙する、荒々しい凶悪犯を熱演する小池氏。
終盤、取調室の内側から、窓の鉄格子越しに東京の夜景を捉えるショットが印象的。街そのものが、牢獄のなかにあるかのようなイメージが、船村刑事の虚無と重なる。
【第230話】ストリップ・スキャンダル!
(脚本:長坂秀佳 監督:野田幸男)

若き風間杜夫さんがゲスト、熱演を見せる。
風間氏と大滝秀治氏の、土砂降りの中の格闘が素晴らしい。
喪失と挫折の物語。
掛け値なしに、私が今まで観た中で最もハードボイルドを感じさせる、日本の映像作品のひとつであった。現在、これほどの傑作が容易に鑑賞出来ない状況にあることは、風俗的な歴史を残す意義も含めて、重大な損失である。
ストリップに関する問題のシーンは冒頭だけなので、惜しい気もするが、これがまた単なる「汚職」等だと成立しない、絶妙な設定なのである。
風俗が絡むリアルな裏社会を描いた、という意味でも必然性がある描写だけに、削り様がない。傑作である。
【第248話】殺人クイズ招待状!
(脚本:長坂秀佳 監督:藤井邦夫)
岸牧子氏の原案をもとに、長坂秀佳氏が脚本を担当。紅林刑事に、「救世主(メシア)の使い」を名乗る犯人が、スーパースターを殺すと予告する!
紅林刑事メインでメディアを利用した劇場型犯罪。
途中まで、かの『怪奇大作戦』の「かまいたち」を連想した。しかし、今となっては、あくまで"動機なき犯罪"へと流れないのが嬉しいエピソードである。
【第256話】虫になった刑事!
(脚本:長坂秀佳 監督:藤井邦夫)
『高校大パニック』('78)の山本茂さん演じる不良の無実を、証明しようと奔走する橘警部の執拗な捜査が描かれる。
フラットに人間を見つめる視線と、そのプロとしての矜持に胸が熱くなる。
無言のラストシーンにも唸る。
【第260話】逮捕志願!
(脚本:長坂秀佳 監督:藤井邦夫)

時効寸前の殺人事件の犯人から、逮捕してほしいと懇願された叶刑事(夏夕介)が動かぬ証拠を求めて奔走する。
情報量も多く優れた短編小説の味わい。
犯人役の織本順吉氏の名演と、叶の屈折した優しさ、ひたむきさに涙。
【第264話】白い手袋をした通り魔!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

西田健氏がゲスト。叶対エリートの構図が「六法全書を抱えた狼!」を逆転させたようで、この構図は基本的にプロレタリアートの味方であり、庶民派の『特捜最前線』ならではの持ち味でもあったと思われる。おなじみ『九尾の猫』的ミッシング・リンクの妙に、又もや驚かされる。
【第277話】橘警部逃亡!
(脚本:長坂秀佳 監督:野田幸男)

視聴者からのプロット公募作。橘警部(本郷功次郎)がメインのエピソードである。
山根組による覚醒剤取引をタレ込んだ、組の下っ端構成員の母親。しかし、そのタレ込みが事前にバレ、母親は火災で死亡。息子も死体で見つかる。怒りに燃える橘は、新宿中央署にスパイがいると睨み、炙り出す為に、自ら殺人犯を装って逃亡を図る!
お馴染み、複雑怪奇過ぎるプロットも楽しいが、今回は何より、橘と桜井警部との絆に泣く。その「厳しき友情」は、まさにハードボイルドな関係性と言えよう。
【第279話】誘拐 ホームビデオ挑戦状!
(脚本:長坂秀佳 監督:辻理)

一般公募の原案から、長坂秀佳氏が脚本を執筆したエピソード。母親の前で誘拐された少女。そして、一本のビデオテープが届く。そこには、少女の他に、母親の姉で、慈善活動で有名な評論家・笹垣(早川保)の妻が映っていた。犯人は、笹垣の数億円のネックレスを要求し、合成背景や視覚効果で捜査を撹乱する…。
いつもよりツイストは緩めながら、当時としては最新のビデオ合成などのトリック導入が長坂氏らしい。
刑事たちの、少女への誕生日プレゼントが感動的。
【第287話】リミット1.5秒!
(原案:葛西裕 脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

番組の放映5周年を記念したプロット公募入選作。
雨の夜、拉致される若い女性。同じ頃、「新宿の目」に呼び出され、殴打され拉致される桜井刑事…その二つの現場には、謎の「72839」の数字。やがて、目を覚ました桜井は、若い女性「露子」(音無真喜子)と監禁され、烈しい暴力に晒される。
そして、朦朧とした彼の前に現れたのは、かつての同僚、唐沢(川地民夫)であった…。
ひたすら続く拷問と女性の叫び声に、少々苦しい(笑)鑑賞となりましたが、流石の長坂脚本。この過度とも思えるヴァイオレンスな展開に、しっかりと必然性を与える後半の仕掛けは見事。
「発砲の必要性」に焦点が当てられた、【第114話】『サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!』の兄弟的なエピソードであり、ここでは「発砲の正確性」、そして同じく、その重大な責任について語られている。長坂脚本・天野演出の両者が、最重要の「発砲の瞬間」と「発砲しない瞬間」の強調スローモーションで終わるのも、その証左であろう。
このエピソードを最後に、長坂氏はいったん『特捜』を離れることになる。
【第317話】掌紋300202!
(脚本:長坂秀佳 監督:田中秀夫)

これも、傑作の誉れ高いエピソード。
議員・城所(山内明)は、贈収賄記録「サクラノート」を巡り、崖っぷちに立たされていた。城所の隠し金庫の、6ケタの暗証番号は、誰も知らない。
一方、城所が探し求めていた人物を探るうち、叶はある驚くべき事実にぶち当たった…。
ゲストは天本英世氏で、城所を狙う殺し屋。豪華である。
言うのも野暮だが、終盤に向けて逆算された、総てのお膳立てを緻密に積み上げていくシナリオが、やはり溜息が出るほど素晴らしい。長坂秀佳氏の「父と子」の関係性を主軸とし、ミステリ的仕掛けと完璧に連動させた、映像ミステリとしても、人間ドラマとしても、珠玉の名編である。
最重要のシーンを撮り直したという、夏夕介氏の演技も鬼気迫る名演。
【第318話】不発弾の身代金!
(脚本:長坂秀佳 監督:藤井邦夫)

戦争の遺物が、階級的コンプレックスを核とした、極めて戦後的な犯罪に使用される不条理。
ゲスト・西田健氏の虚無的犯人像が出色!やはり、子どもたちが爆弾のピンチに陥る展開に手に汗握る。
【第351話】津上刑事の遺言!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

届き続ける、亡き津上刑事を非難する手紙…それは、信号無視で車に撥ねられたと決めつけられた、父の無実を証明したいという、少年からのものだった。生前、津上は、少年の「青信号だった」という目撃を信じ、協力すると約束していたのだ。特命課の刑事たちが、津上の遺志を受けて、動き出す…!
過去の、津上刑事の言葉が手がかりになる構成の巧みさ、信号機のロジック、追っていた証人があと一歩で消えるツイスト、そしてコンピュータ画面に明示される決定的証拠の痛快さ、そしてラストの津上刑事の笑顔。
全てが有機的に繋がる脚本の妙。
キャラクターたちへの愛情が横溢した内容に、胸が熱くなる。350回記念作品(第二弾)だけに、久しぶりの、高杉刑事(西田敏行)、滝刑事(桜井健一)登場も、嬉しいファン・サービスであった。
【第359話】哀・弾丸・愛 七人の刑事たち
【第360話】哀・弾丸・愛Ⅱ 七人の刑事たち
(脚本:塙五郎 監督:辻理)

銀行強盗が立て籠り、特命課が突入する直前、船村刑事(大滝秀治)が心臓発作で倒れる。それでも自分が撃つと叶刑事(夏夕介)を抑えるが、船村は犯人を前にして発砲出来ず、行員1名が死に、高杉婦警(関谷ますみ)も重傷を負ってしまう。
そして、3000万円も銀行から消えていた。船村は、重要容疑者・広川も逃してしまい、その責任を取る覚悟を決める…。

精神的にも肉体的にも、老境に達しつつあることを自覚して自信を喪失し、焦燥を深めていく船村と、彼を必死で護ることがそのプライドを、決定的に傷つけると知りつつ、寄り添わずにおれない、男たちの熱き心情と軋轢、ぶつかり合うプロ意識。
権力の走狗である宿命を背負いつつ、いち職業人としてのプライドを、例え痩せ我慢であったとしても、決して捨てない…。大滝氏を筆頭に、刑事たちの名演も忘れ難い、人間ドラマ系の傑作である。
私は、もともと長坂秀佳氏の『特捜』が好きで、それ以外でも本格ミステリ味の強いエピソードが、お気に入りの傾向にあった。でも、「裸の街」2部作を観てから、塙五郎脚本にも魅せられ、今に至る。
名作中の名作と謳われるこの連作エピソードは、たしかに凄まじい作品であった。
【第399話】少女・ある愛を探す旅!
(脚本:長坂秀佳 監督:天野利彦)

橘警部(本郷功次郎)メイン回で、戸籍のない少女の出生を辿る執拗な捜査を描く。
伴って浮かびあがる、少女の母が絡んだ強盗殺人…。社会の陰に取り残された人々に光を当てる真摯さと、不可分に結びつくミステリとしての見事さ!
【第418話】少年はなぜ母を殺したか!
(脚本:長坂秀佳 監督:辻理)

1985年放映のエピソードで、法廷のみのワンセット・ドラマを実現した長坂秀佳氏の脚本がまず驚愕である。
被告である少年、法廷に参加する特命課刑事たちにも寄り添わず、客観的な裁判劇に徹する構成が凄い。無罪=被告人及び家族の幸福にはならず、突き放す結末に唸る。
【 結び 】

…長坂秀佳氏が著した『術』(辰巳出版)を読むと、この人生、淡い水彩画ではなく、コテコテの油絵による大壁画を見る思いである。
私でも知っている映画・TV界の重鎮の方々が群雄割拠として続々登場、壮観だ。
特に、亡くなられた市川森一氏との、熱きライバルとして、友としてのエピソードに感動し、涙した。
長坂秀佳氏がショックを受けたという須川栄三監督『野獣死すべし』や、砧時代に携わったという『100発100中』や(特に)『けものみち』など、私のツボに嵌る作品ばかりである。
岡本喜八監督との『激動の昭和史 沖縄決戦』での軋轢、長坂氏がより、沖縄の悲劇に寄り添った内容にしようとして採用されなかったというエピソードは、いち兵士の視点に拘る監督との差であり、確かに、さもありなんと思わせる。
少年時代、毎週心待ちにしていた『少年探偵団』。夢中になり、彼らの一員になりたいと、切に願ったものだった。
そのメインライターが、長坂秀佳氏であったと今さら知り、知らないうちに、どれほど影響を受けていたのかと空恐ろしくなる。
だからこそ、『特捜最前線』においても、長坂秀佳氏の脚本担当エピソードに注目してしまうのも止むなし、というところだろう。僕は、本シリーズの(特に長坂脚本作品)を観る際にも、BD7、つまりは長坂氏の作品のトレードマークとして表出する「父と子」という関係性の、「子ども」側の視線に、共感してしまうのだ。
法による「規律」「規範」を、「国家」という権力を背景に行使する、「刑事たち」。
彼らこそ、子どもたちに代表される「弱きもの」、そして「未来」を護る、「正義の使徒」であらねばならない。
その理想は、「国家」=「父性」と、「(護られるべき)民衆」=「子」という構図にも置き換えられる。
しかし、民衆の父たる「国家」=善、ではほぼ、あり得ない。
だからこそ、「庶民の側に立ち、その心情を誰よりも理解し」「より良く権力を行使し」「子どもたちを命がけで護ろうとする」大人たち、子どもたちにとって、こうあってほしい”祈り”としての「父親像」=刑事たちの姿ではなかったか…と思うのである。
そのあたりは、権力を背景に持たない、「良き兄」としての「明智小五郎」(『少年探偵団』)の位置付けとは、まったく違う点であろう。
もちろん、塙五郎氏ほか、優れたメインライターは数多くにのぼり、多彩な展開をみせた長期シリーズであるだけに、安易にまとめることは出来ようもないが、こと思い入れのある長坂『特捜』においては、そんな構図と捉えることも可能ではないか…と考えるのである。

参考:『術』(長坂秀佳・著 辰巳出版)
※最後に、この作品を観る機会と、素晴らしい考察の場を設けて頂いた、松井和翠氏に、心より感謝申し上げます。