GHOST STORY(’59)
怪談

倒叙ミステリ的、
ライトなホラー艶笑譚
皆さま、こんにちは。
めとろんです。
かの有名な「刑事コロンボ」の原作者、ウィリアム・リンク&リチャード・レヴィンソンの作品を、ぼくの感想をまじえてご紹介する「W・リンク&R・レヴィンソンの世界」。
今回は、若き日のリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクが執筆した、ライトな艶笑譚であり、後の倒叙ミステリ的要素も含む興味深いホラー短編、『GHOST STORY』(怪談)をご紹介します。
Story
(ブログ執筆者の試訳によるあらすじ)

"「私は20年間、証明可能な幽霊やポルターガイストを探してきたが、一匹も見つけられなかった。なぜだかわかるか?」
みんな理由を知っていた。
「存在しないからだ」"
富豪で性豪、幽霊ハンターであるジェレミー・フレッチャーは50歳にして、彼の髪はつややかな黒で、ワインと女性の趣味は衰えず、体はボクサーのように細く、愛人も星の数ほどいた。
彼は、幽霊狩りの話を、隣人のホーム・ムービーのように、何度も何度も繰り返していて、
ジェレミー・フレッチャーは言った。
「幽霊の存在を証明できた男、女、いや子供にさえ、10万ドルを支払う。そしてこの20年間、誰もその挑戦を成功させた者はいないのだ」。
そこで、不動産屋の、スミスを名乗る男が告げた。
「幽霊を見せられると思いますよ、フレッチャーさん」

彼は、17世紀後半に火事で焼けた酒場を改装して売り出したが、女性の泣き声や廊下で足音がして、買い手がつかないと話す。それは、ドロテアという女性の哀しい幽霊ではないかと。
“「いずれにしても、一時期、彼女は、恋人と数ヶ月間会えない時期がありました。陸軍が、イギリス軍との戦いを再開していたために、彼女に会いに行くことはできなかったのです。そんな彼女に、ある運び屋がメッセージを届けてくれた。恋人は、その夜12時に到着する。」
スミスは口元を整え、部屋を見渡した。
「彼女の準備については、皆さんにお話しするまでもありません。彼女は風呂に入り、服を着てあらゆる魅惑的な技術を頭の中でリハーサルして待った。
しかし、それは無駄となりました。その夜、ワシントンはトレントンのヘジシャンを攻撃。恋人は来なかった。夜の7時過ぎに、暖炉の火が酒場の壁に燃え移った。
建物は燃えてしまい、ドロテアは死んでしまった。彼女は満足できずに死んだようです。」”
早速、ジェレミー・フレッチャーは録音機等の機材を抱えて、その建物に泊まった。
すると、すぐに異変が起こる。彼が吹き込み2階に置いたテープが勝手に再生を始めたのだ。
“「テスト中。もし君がここにいるなら、何か騒いでくれ。私は永久に記録を残すだろう。」
笑い声が聞こえた後、沈黙が訪れた。”
その後、彼女が現れた。
“「お嬢さん、奴はあなたにいくら払っている?彼は何をしたんだ?ニューヨークのモデルエージェンシーからスカウトしてきたのか?」
彼は階段の方へ歩いて行き、「降りて来いよ、スミス。うまくいかないぞ」と言った。
“わからないわ"と少女は言った。
「いや、そうじゃないと思うぞ。恐らくスミスは、君に詳細を話していないのだろう」と言い、声を低くした。
「教えてくれ、クラブの奴らは、この件に関わっているのか?」
"クラブ?何のクラブ?”
「前回の宴会で見なかったか?いいか、スミスはどこだ?」
“何を言っているのかわからない”と言って、彼女の目は大きく開いた。
"あなたは怖い。”
「お嬢さん」ジェレミーは強く言った。「この小さなゲームを止めよう。私はジェレミー・フレッチャー。幽霊ハンターだ。」”
何の話か判らないと戸惑うドロテアを、スミスに雇われた女優だと信じ込むフレッチャーは、彼女に「幽霊であると証明してみせろ」と、奇抜な案を持ち掛ける…。

【 MEMO 】
―1959年10月、雑誌『Escapade』に掲載された、若きリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクが描くライトな艶笑譚。「脱線、または突飛な行為」を指す雑誌名が表すが如く、当時の青年層に向けた記事や、軽い読み物を幾つも載せたカラフルな誌面に合わせた内容となっています。
…とは言え、下世話なエロスなど何処吹く風、ゴースト・ハンターと幽霊の、どこか嚙み合わない会話が微苦笑を誘う、一幕物の舞台劇のような、何ともユーモラスな一編に仕上がっています。そう、やはり1対1の対決の作劇が楽しい、2人芝居なのです。
しかも、一方の「ゴースト・ハンター」ジェレミー・フレッチャーが相手を幽霊ではなく、詐欺的人物と疑い、他方の「幽霊」ドロテアが、自身が真実に幽霊であることを「証明する」ことを強いられる…その、丁々発止のやり取りは、後の倒叙ミステリ劇を思わせる、「いかに証明するか」についてのプロットなのでした。
オチは言わぬが花ですが、彼女が「幽霊であると証明する為の奇抜な手口」が、恐らくは掲載誌が要求する"エロティックな題材"とも絡み合って、何とも「理に落ちる」と言いますか、とても煽情的とは言い難い(笑)、ある意味、彼ららしい作品となっていると、思います。
この年、1959年初頭に、彼らのTVドラマ処女作「Face to Remember」(General Motors Presents 1952–1961)が放映され、夏にはロサンゼルスに移住。TV映画製作会社フォー・スター・フィルムズと契約し、脚本家としてはもちろん、TVドラマに関わる全般に八面六臂で走り回っていた頃、執筆されたこの短編。相手側のオファーには、何でも応えてやろうと言わんばかりの、意欲を感じます。
そして、この次の年の春には「DEAR CORPUS DELICTI」(「愛しの罪体《犯罪の実質的事実》」)をアルフレッド・ヒッチコック・マガジンに執筆し、夏にはこの短編を基にした『Enough Rope』(NBC The Chevy Mystery Show)が放映されることになるのでした。
…それはまた、別の話。

一応、ホラー作品としては、1985年に出版された小説『PLAYHOUSE』(Ace Books)に連なる系譜と、言えるかも知れません。
やはり、一番目を引くのは、主人公の「ジェレミー・フレッチャー」という名前でしょう(笑)。後の、素人探偵に冠された人物に似た、この名前…。彼らの灰色の脳細胞には、この頃、既に宿っていたということでしょうか。
適度にエロティックな要素もある、彼らの才気溢れる短編小説です。
それでは、また。
※資料提供…町田暁雄氏
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