劇団フーダニット第20回公演
殺人処方箋
~刑事コロンボ登場~

Prescription: Murder
at タワーホール船堀
2021年7月9日(金)~11日(日)
皆様こんにちは、めとろんです。
去る7月10日(土)午後、江戸川区を拠点に活動するミステリ劇専門劇団、「劇団フーダニット」の第20回公演、『殺人処方箋~刑事コロンボ登場~』(ウィリアム・リンク&リチャード・レヴィンソン作 松坂晴恵 訳・演出)を観劇して参りました。
その感想を、記憶が急激に薄れゆく昨今(笑)、早めに綴っておきたい。
公演パンフが今回も素晴らしく、町田暁雄氏による「舞台版《殺人処方箋》をさらに楽しむための5つの基礎知識&トリビア集」、そして豪華ミステリ研究家による倒叙ミステリ論考と充実した内容。すべてに、作品愛が溢れた公演だと改めて実感するのでした。
まず、細かい内容につきましては、まずは過去の記事、
R・レヴィンソン&W・リンクの世界(41)
舞台劇 Prescription: Murder('62)殺人処方箋
トーマス・ミッチェル=コロンボ警部補登場!
…をご参照頂ければ、と思います。
もともと舞台劇であったリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク作『殺人処方箋』の映像なども今や全く残っておらず、現在は、そのパンフレットの写真で当時の活況を推察するのみ…となっています。で、ありますからして、今回の舞台本邦初上演は、史上空前の、画期的な出来事なのです。
日本に住む我々にとって、舞台だからこその、独自の作劇である真の『殺人処方箋』を、本国における1962年のトライアウト以来、59年越しで、初めて目の当たりにする瞬間が、ついに訪れたのです。興奮押さえ切れぬのも、無理からぬことでしょう。
今回の公演で実感したことは、一部始終の傍観者で客観視点を代表するミス・ペトリと、権力の象徴であるデイブ・ゴードンの紹介(その後は、実際には現れない)を除き、ほぼ、全場面が濃密な「2人芝居」で貫かれており、レヴィンソン&リンク作劇のひとつの特徴である、”1対1の対決の葛藤のドラマ”が、舞台上に役者の「肉体性」を得て、観客の眼前で展開することで、各キャラクターの生々しい存在感が、より増幅され立ち上がる…という点でした。
前身となったドラマ「Enough Rope」や、後進のTVムーヴィー版が、つねに客観的で俯瞰的な視点で貫かれているのに対して、舞台劇の必然と言うべきか、各場面での主役はステージ上の「2人」であり、観客席で目撃する我々にとっては、このキャラクターたちに対して、心理的に極限までズームアップして、感情移入を迫られる感覚なのです。
★第一幕 第一場 … ロイ・フレミングと妻クレア
第二場 … ロイ・フレミングと妻クレア(犯行後は、スーザン・ハドソン)
★第二幕 第一場 … ロイ・フレミングとコロンボ
第二場 … ロイ・フレミングとコロンボ(交代してスーザン・ハドソン)
第三場 … ロイ・フレミングとスーザン・ハドソン(交代してコロンボ)
★第三幕 第一場 … ロイ・フレミングとコロンボ
第二場 … スーザン・ハドソンとコロンボ
第三場 … ロイ・フレミングとコロンボ
(終局は、スーザン・ハドソンとミス・ペトリ)
犯人(たち)の犯行シーンも割愛されて空港関係者も登場せず、コロンボの同僚「フレッド」も会話のなかにしか存在しない。
登場人物は大胆なまでに消去され、常に「個」と「個」が愛し合い、疑い、ぶつかりあう緊張感が持続する。若きレヴィンソン&リンクの胆力溢れる作劇の緊密度は、各場面を見終えるごとにドッと疲れ、思わずため息を漏らすほどでした。
特に、被害者であるクレア・フレミングの肖像はTVムーヴィー版における「老醜」とも言うべき位置付けから、依存欲求が高めな普通の女性として自然に描かれ、その実在感と哀切さが、強く心に残ります。
また、「第三幕 第一場」における、ロイ・フレミングとコロンボが「架空の殺人者」の精神分析を試みる、この舞台劇最大の”見せ場”においては、効果的なライティングによって、立ち上がったロイ・フレミングの影がコロンボに覆い被さるように巨大に映しだされ、その冷酷で暴力的な内面を象徴的に演出していて圧巻でありました。
舞台劇『殺人処方箋』は、秀逸な倒叙ミステリとしての側面は勿論、舞台であればこそ、の凝縮された、濃密な人間ドラマとしての側面が、意外にも浮き彫りになった印象であり、TVムーヴィー版でプロットそのものは知っていたとしても、その独自性がもたらす衝撃は、揺るがないのである。
そして、やはり舞台オリジナル版独自の結末ですが(以下、ネタばれ反転)
ロイ・フレミング役の川崎拓己さん、コロンボ(B)役の中山一喜さん(Wキャストで、コロンボ(A)役の円城寺ソラさんの回も観たかった!残念ながら叶わず…)の名演と、松坂春恵座長の演出により、説得力のあるラストになっていたと思います。
この、ある種の「どんでん返し」である犯人の”動機の暴露”まで、この作品すべてが、「ロイ・フレミング」こそを主役として、組み上げられていると実感できました。

ロイ・フレミング役の川崎拓己さんは、少々「Enough Rope」のリチャード・カールソンに似た神経質さと生真面目さを体現した造形であり、ラストの転調も納得出来得る幅のある演技、そして膨大な台詞量が凄まじい。
コロンボ役の中山一喜さんは、ちょっと気弱そうだが職業人としての気骨を感じさせ、時に激昂するギャップに驚かされました。
そして、スーザン・ハドソン役であるさつまいもさんの存在感!コロンボと1対1で対峙する辛い場面を筆頭に、これまた観客を感情移入させずにおかない親しみ易さが、今まで観てきた「スーザン・ハドソン」とはまた違った印象で、ラストの余韻漂う演技も素晴らしかった。
ミス・ペトリ役の恩田一美さんは、緊張感溢れるドラマの緩衝材として、ホッとする存在でした♪
繰り返しになりますが、今回、オリジナル舞台劇版の、独自の結末がステージで演じられるさまを、間近で観られたことは、本当に得難い経験でした。
コロナ禍の中、公演延期を経て、この見事な舞台に結実された劇団フーダニットの俳優の皆さま、そしてスタッフの皆さまに、心から感謝を送りたい。
…大変に、ありがとうございました。
なお、鑑賞後に、松坂健氏、松坂春恵座長と御挨拶させて頂き、貴重なお話を伺えたのも、感謝です。

観劇の記念に、劇団フーダニット特製コロンボマグカップを購入しました。
マチネでコロンボ警部補(B)役を熱演された、中山一喜さんのコロンボと、川崎拓己さんのロイ・フレミングがプリントされた限定版。デザインは、われらが、えのころ工房さま。
このマグカップで、わが家にて「珈琲ある?」とやってみたいものです(笑)
11日(日)夜までの公演です!
それでは、また。
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