2018年03月02日

《ミニコラム》【改訂版】Blu-ray化切望!『押繪と旅する男』('94)めとLOG 12th Anniversary 

《ミニコラム》

【改訂版】
Blu-ray化切望!
と旅する('94)


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めとLOG 12th Anniversary

 皆様、こんにちは。
 めとろんです。

 光陰矢の如しー。
 自分でも驚くべきことに、前回の更新から、あっと言う間に1年が過ぎ去ってしまいました。
 この1年、新居への引越しに仕事でも部署の移動と、慌しいことこのうえない日々であったとは言え、流石に1年間の開店休業状態は如何なものかと、反省することしきり。
 ブログ創設12年を越えましたが、今年はさらに気楽に、更新していきたいと思っています。
 ご愛顧のほど、引き続きよろしくお願い致します♪

 

 さて、今回のテーマは、乱歩生誕100年の1994年に公開された川島透監督の『押繪と旅する男』('94)。以前、記した通り、この傑作をかつて公開当時に観た際、今考えれば不遜にも僕は(この作品は)違和感がありました。当時は『チ・ン・ピ・ラ』の川島透監督が、乱歩を撮るというのが意外でしたし、先入観があったことも否定出来ません。でも、この映画を今回観直してみて、まさに"乱歩的"な、紛れもない傑作であったことに、震えるような驚きとともに、改めて気づかされたのです。先日、Twitterで川島透監督は戦前の怪奇幻想の浪漫をもともとお好きだと発言されていました。

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 曰く「乱歩も夢野久作も久生十蘭も小栗虫太郎も好きです。十代の終わり頃戦前の怪奇幻想小説のリバイバルがあり当時熟読した記憶があります。ゴシックロマンスも好きです。」

 今となれば、監督には夢野久作や小栗虫太郎の世界をぜひ、映像化してほしいと思わずにはいられません。

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 久しぶりにこの作品を観始めて、冒頭タイトルの秀逸なタイポグラフィからおおっ、と思わず居住いを正しました。何と初の主演作品であったという浜村純さんの熱演が胸に迫り、天本英世さんや多々良純さんの出演も嬉しい。

 そして、見終わってまず脳裏に浮かんだのは、この作品が人生に関するあまりに醜く、そして美しい映画であるということでありました。

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 原作は、『新青年』昭和4年6月号に掲載された、言わずもがなの同名傑作短編。
 蜃気楼を見物に行った帰り、主人公の「私」が汽車の中で出会った老人から不思議な話を聴く。それは、老人が持ち運ぶ押繪細工にまつわる、およそ信じがたい物語であった。それは遠い昔、押繪細工でできた女性に恋をして、自らも押繪と化した兄のこと。…

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 この原作を、その後『新世紀エヴァンゲリオン』に関わる薩川昭夫氏と、川島透氏が脚色。原作のもつエッセンスを残しつつも、大胆に再構築しました。
 押繪細工の世界に旅立つ兄・元木昌康(演じるは元東京グランギニョルの飴屋法水)と、取り残される妻・百代(鷲尾いさ子)、そして思慕を寄せる弟・邦晴(藤田哲也、浜村純)。

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 現代、老人となった元・特高警察の邦晴。少年時代、凌雲閣から恋するお七のいる押繪細工の世界に去っていく兄を、恨みと共に見送った邦晴。過去と現在は入り乱れ、妖しく交錯する。そして、少年・邦晴と百代が、蜃気楼を見るために魚津を訪れ、そして別れる。蜃気楼を前に佇む、少年・邦晴と老人・邦晴の姿で、映画は幕を閉じる。…

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 さて、あらためて今回、ラストシーンを観て愕然としました。

 どの作品もそうだとは言え、この映画は、その構造として、絶対に映画館で観るべきだったと思ったのです。同時期に公開された『RAMPO』(特に、黛りんたろうヴァージョン)がまさに、江戸川乱歩の遺した「現世は夢 夜の夢こそまこと」の言葉を「怪奇幻想の浪漫の世界に、隠棲し自閉する」ことと捉え、彼の内面世界を描いた作品であり、私はそこに違和感がありました。

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 しかし、川島透監督による映画『押繪と旅する男』は、現実と"彼方の世界"を越境する者と、取り残される者の哀しみを、老人ー少年の時間軸を自在に行き来しつつ描き出す。
 "彼方の世界"とは、=主人公の兄が去る「押繪細工」内世界であり、=「虚構」=「死」のメタファーであり、まさに「映画」そのものです。
 この作品では、現在ー過去、現実ー虚構(映画)は対立構造にありません。
 両者は激しく越境され、終いには現実と虚構は等価だと告げられます。ラストで砂丘に佇む「虚構内の人々」から眺められる「蜃気楼」とは、この映画を今まさに観ている我々です。

 ー彼らから見れば、この現実こそが「虚構」なのです。

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 恥ずかしいことに、美しくも沈痛なラストシーンで、登場人物たちがこちら(カメラ越しに)を一心に眺める"蜃気楼"とは、スクリーンを見つめている私自身を見ているのだと、今回やっと気付き、震えるほど感動しました。
 私にとって、乱歩とは、「幻想世界に隠棲する自閉者」ではなく、ラディカルに「幻想と現実は等価である」と叫ぶ、超現実主義者なのです。
 この映画のラストシーンを、"真に乱歩的"であると感じた所以です。

 『月刊漫画ガロ』1994年4月号を紐解けば、其処に本作品に関する、川島透監督へのインタビューが掲載されていました。
 少々、引用させて頂きます。

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 「乱歩さんには晩年に至って自分をいじめ抜いた考えがあってね。「私は多分、世界で一番ものが分かっているけど、私はそれを表現出来ない」というくやしさを感じるよな。乱歩さんの映画ってさ、作られるとだいたい猟奇的な映画だと思われる事が多いでしょ。あと少年探偵団を中心とした子供向きという。今回はそうでなくて乱歩さんを原作としてきちんとした映画を作ってあげたかったんだな。僕はそのつもりで作ったんだけどそれが乱歩さんの意に沿うかどうかは僕にはよくわからない。

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 ただある「永遠」だったり、ある「蜃気楼」という事に託したものであったり、色々なものに対して僕は僕なりにそれを一歩進めて、物凄く生意気にいえば乱歩さんのなかに内在していたものを引っ張り出す形で物語る、そのことによって作品としてもう少し人に染みわたるものにして行くつもりはあったよね。

 原作のある映画は今回が初めてだったんだけど、原作者の意に沿うという言い方はおかしいけど、ある種、乱歩さんとは僕なりに語り合ったつもりはあるね。乱歩さんはこう書かないだろうし、こうは作らないだろうけど、こう作ることは乱歩さんにとって悪い事ではないんじゃないかという気持ちは凄くあったね。」


 「乱歩のなかに内在していたであろうものを、引っ張り出す形で映画を作る」…その指向性で脚色され演出された作品。
 泣けるような気持ちで、そのブレない姿勢を、現在また再確認するのです。

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 同時に、後年の、ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』のラストカットも想起しました。フィクションとリアルが交錯するスリリングな瞬間が、乱歩世界と繋がる感覚が映画(押繪細工)の魔術でしょうか。
 この傑作が、ビデオソフトのみで、DVD化すらされていないことに愕然とします。
 Blu-ray化を、切に望みたいとさらに、訴えたいと思います。

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 ちなみに、それからしばらくして、久しぶりに『怪奇大作戦』第7話「青い血の女」('68)を観ました。そこで、この川島透監督『押繪と旅する男』('94)がその26年後で、浜村純さんはどちらも同じく老人役であることにも愕然としました。(笑)
 
 遅々とした更新ペースではありますが、これからも、何卒よろしくお願い致します。


posted by めとろん at 17:57| 千葉 ☀| Comment(4) | 江戸川乱歩 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
12周年おめでとうございます。
めとろんさんの映画の見方、小説を鑑賞する視点にいつも瞠目します。
乱歩は横溝正史に比べ、映像化に恵まれない、特に映画には傑作が少ないと思っているのですが(例外は加藤泰の「陰獣」でしょうか…)、川島監督の作品、是非観てみたいと思います。
Posted by ハヤシ at 2018年03月02日 20:32
ハヤシ さま、
いつもありがとうございます!
1年ぶりの更新にもかかわらず、早速コメントを頂き、心より感謝です。
乱歩原作の映像化作品では、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』や実相寺昭雄監督作、TVの『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』や美女シリーズ、最近ではNHK・BSのシリーズ・江戸川乱歩短編集が、特に好きでした♪乱歩作品の映像化は、どの要素を切り取るかで全くイメージが変わってきますね。私は、あまりにグロテスクな作品は苦手です(笑)
『孤島の鬼』の完全映像化、を望みたいですね。
また、いらしてください。お待ちしております。


>ハヤシさん
>
>12周年おめでとうございます。
>めとろんさんの映画の見方、小説を鑑賞する視点にいつも瞠目します。
>乱歩は横溝正史に比べ、映像化に恵まれない、特に映画には傑作が少ないと思っているのですが(例外は加藤泰の「陰獣」でしょうか…)、川島監督の作品、是非観てみたいと思います。
Posted by めとろん at 2018年03月03日 10:15
はじめまして。かざりと申します。数年前の記事にいきなりコメントしてしまってすみません。
最近飴屋法水を知って興味を持ち、「押絵と旅する男」を視聴したいのですが、どこにも売っておらず、配信サービスにもないため、もし他の視聴方法をご存知でしたら教えていただけると嬉しいです。
Posted by かざり at 2022年03月08日 00:02
かざりさま、コメントありがとうございます!

現状、この作品は配信されておらず、またかなり以前に発売されたVHSでしか鑑賞できないと思います。
だからこそ、「Blu-ray化熱望!」で、何とか実現したら良いですね。このようなお答えで、申し訳ありません。また、ぜひ、いらして下さいね。



>かざりさん
>
>はじめまして。かざりと申します。数年前の記事にいきなりコメントしてしまってすみません。
>最近飴屋法水を知って興味を持ち、「押絵と旅する男」を視聴したいのですが、どこにも売っておらず、配信サービスにもないため、もし他の視聴方法をご存知でしたら教えていただけると嬉しいです。
Posted by めとろん at 2022年03月08日 05:05
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